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13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入後の小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の現状

(IASR Vol. 39 p112-114: 2018年7月号)

はじめに

日本では, 小児の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)予防を目的として2010年2月から7価肺炎球菌結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV7)が導入され, さらに2013年11月には13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)への切り替えが行われた。PCV13は, ワクチンに含まれない莢膜多糖体抗原血清型(non-vaccine serotypes: nVT)を持つ肺炎球菌感染症に対しては予防効果を示さないため, 先行してPCV13が導入された諸外国からは, nVT肺炎球菌による感染症の相対的あるいは絶対的増加が報告されており, 血清型置換(serotype replacement)として問題視されている。本稿では, PCV13導入後の日本国内の小児IPDの疫学的, 細菌学的変化について概説する。

調査方法

我々は, 厚生労働科学研究事業研究班(神谷班, 庵原・神谷班), 日本医療研究開発機構研究班(菅班)として, 小児侵襲性細菌感染症のアクティブサーベイランスを2008年より継続して実施している。調査対象地域は, 北海道, 福島県, 新潟県, 千葉県, 三重県, 岡山県, 高知県, 福岡県, 鹿児島県, 沖縄県の1道9県である。報告対象とした患者は, 生後0日~15歳未満で, 肺炎球菌による侵襲性感染症に罹患した全例とした。罹患率の算出には, 総務省統計局発表の各年10月1日時点の県別推計人口を用いた。ワクチン導入後の罹患率の変化を評価するために, 2008~2010年の罹患率をベースとして, 各年における罹患率の減少率を計算した。菌の同定・血清型判定は, 国立感染症研究所で実施し, 血清型分布の変化につき検討を行った。

結 果

多くの自治体でPCV7の公費助成が開始された2011年には, IPD罹患率は19%減少しており, その後, 2012年には54%, 2013年は57%の罹患率低下が認められ, 統計学的にいずれも有意な減少であった。小児IPD患者より分離された肺炎球菌血清型の解析により, 血清型19Aを始めとして, 15A, 15C, 24Fなどのnon-PCV7 type検出割合が増加していることが判明し, 日本においてもPCV7導入後に血清型置換が起こったことが示された1)。起炎菌血清型別のIPD罹患率をPCV7導入前後で比較すると, PCV7 typeによるIPDは98%減少していたが, non-PCV7 typeによるIPD罹患率が80%増加したため, ワクチン効果が部分的に相殺され, 総IPD罹患率は57%の減少にとどまったことが明らかとなった。

2013年11月1日のPCV13への切り替え後, 肺炎球菌髄膜炎の罹患率(5歳未満人口10万人当たり)はわずかな減少が確認された(2013年:1.1, 2017年:0.9)(図1)。しかしながら, 非髄膜炎感染症およびIPD全体としての罹患率は2013年以降に漸増傾向が認められている(図1)。2017年にはnon-PCV13 typeの分離割合は96%に達した(図2)。特に血清型12F, 15A, 24Fの増加が特徴的であった。血清型別のIPD罹患率を経年的に解析すると, PCV7導入によりPCV7 typeによるIPDが減少し, PCV13への切り替えにより, PCV13 minus PCV7 type(追加6血清型)によるIPDの減少が認められており, 2017年のPCV13 typeのIPD罹患率は, PCV7導入前(2008~2010年)と比較して97%減少していた(図3)。しかしながら, non-PCV13 typeによるIPD罹患率が304%増加したために, IPD全体としては50%の減少であった(図3)。PCV13導入後も血清型置換が進行していることが明らかとなった。

考 察

PCV13は, ワクチンでカバーされる血清型肺炎球菌による小児IPDの予防に極めて有効であることが示された。しかしながら, 高い接種率で予防接種が実施された結果として, 血清型置換が観察され, ワクチンでカバーされない血清型によるIPDの罹患率増加をもたらしたことも明らかになった。システマティックレビューによる世界各国における血清型置換の状況が文献的に比較されている2)。PCV13導入後の小児IPD患者より分離された血清型の解析では, non-PCV13 typeの割合は, 日本が96%であるのに対し, 北米で57.8%(95%信頼区間:41.6-80.4%), ヨーロッパで71.9%(同63.1-82%)となっており, 日本における血清型置換は欧米と比較してより顕著であることがわかる。血清型置換に対応するためにPCV13が導入され一定の効果は認められたものの, 将来的にはさらに幅広い血清型をカバーするワクチンや, すべての肺炎球菌に共通する抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれる。

 

文献
  1. Suga S, et al., Vaccine 33: 6054-6060, 2015
  2. Balsells E, et al., PLoS ONE 12: e0177113, 2017

 

国立病院機構三重病院小児科 菅 秀
札幌市複十字総合健診センター 富樫武弘
福島県立医科大学 細矢光亮
千葉大学 石和田稔彦
新潟大学 齋藤昭彦
岡山大学 小田 慈
高知大学 藤枝幹也
福岡看護大学 岡田賢司
鹿児島大学 西 順一郎
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 安慶田英樹
国立感染症研究所 常 彬

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