国立感染症研究所

IASR-logo

同種造血幹細胞移植後の23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの効果

(IASR Vol. 39 p119-121: 2018年7月号)

背景・目的

-同種造血幹細胞移植後(以下 “移植後” と記す)の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD: invasive pneumococcal dis- eases)は罹患率が高く致命率も高い。また, 移植後晩期の発症が多く, ワクチンによる予防が重要とされる

移植後の患者はIPDのリスクが非常に高い。一般人口での発症が11.5/10万人・年であるのに対し, 移植後には590/10万人・年と非常に罹患率が高いことがカナダから報告されている1)。IPDが問題となるのは移植後晩期が中心となる。移植後100日以降のIPDの頻度はそれ以前の約10倍とされ2), IPD発症中央値が移植後18カ月前後という報告が多い3)。これは, 移植後の免疫回復において, 液性免疫不全が最も時間を要することに起因する。このため, 移植後晩期には肺炎球菌やインフルエンザ菌といった有莢膜細菌による感染症のリスクが顕著となる。IPDの死亡率は1~2割程度と高いことに加え, 急激な転帰をたどり発症後数日で死亡したり, 重度の後遺症を残す症例が少なくない。IPD予防として何年も抗菌薬を投与し続けることは現実的ではなく, 近年は抗菌薬耐性の問題もある。このため国内外のガイドラインではワクチンの接種が推奨されている4,5)

-移植後3カ月以降に13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)3回接種, 12カ月以降に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)接種が推奨される

一般的に移植後の患者はワクチン未接種の新生児と同様に, すべてのワクチンを再接種することが推奨されている5)。肺炎球菌ワクチンも例外ではなく, 国内外のガイドラインでは3回のPCV13接種後に1回のPPSV23接種が推奨される4,5)〔ただし, 慢性移植片対宿主病(GVHD)によってワクチン効果があまり期待できない場合にはPPSV23の代わりに4回目のPCV13が接種される場合もある〕。

-接種における問題:原因菌血清型分布の変化および接種費用など

2010年11月以降小児に対する7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)による定期接種が導入され, 成人IPDの原因菌としてPCV7非含有血清型の割合が増加してきている6,7)。成人へのPCV13接種の効果低下が懸念されることに加え, 自費である成人へのPCV13の3回接種の経済的負担は大きい。一方, PPSV23はPCV13よりカバーする血清型の範囲が広く値段も安い。

本研究の目的は移植後成人へのPPSV23単独接種の効果を調べることである8)

方 法

血液悪性腫瘍に対する移植後1年以上経過した30名を対象とし, PPSV23を接種する直前, 1カ月後, 6カ月後, 12カ月後に肺炎球菌に対する抗体を測定し, その反応率を評価した。副次的評価項目として安全性および反応率に影響を与える因子, 研究期間中のIPDについて検討した。免疫原性は, ELISAを用いた抗肺炎球菌莢膜血清型IgG抗体値multiplex-opsonophagocytic assayを用いたオプソニン化貪食殺菌活性(opsonophagocytic killing activity: OPA)で評価した。肺炎球菌に対する防御機構としてオプソニン化および好中球の貪食が重要であり, OPAはその過程を評価することのできる検査である。莢膜血清型特異IgGが接種前の2倍以上もしくは, OPA力価が接種後に8を超えた場合を有効抗体価獲得と定義した。プレドニゾロン換算で0.3 mg/kg以上のステロイドを要するGVHDを合併した患者は除外した。

結 果

接種の対象者の年齢中央値は54歳(範囲23-68歳)で, 接種時期の中央値は移植後756日(同389-1,903日), 接種後の観察期間中央値は1,135日(同729-1,351日)であった。接種時の各免疫回復指標中央値はそれぞれリンパ球総数:1,895個/μL(同970-4,250), CD4: 408個/μL(同161-1,169), CD20:512個/μL(同57-1,569), IgG:1,096mg/dL(同555-2,181)であった。8名が接種時に免疫抑制剤投与中であった(タクロリムス3名, プレドニゾロン5名)。

特異抗体価の推移を図1に, 有効抗体価獲得割合の推移を図2に示す。接種1カ月後に抗体価が速やかに上昇し, 1年後も約半数の患者で有効抗体価を維持できていることが示された。接種1カ月後に測定したOPA力価では, 測定した8種の血清型のうち3つで, 有効抗体価獲得に関連した有意な因子として末梢血幹細胞移植が抽出された。問題となる副反応はなく, 観察期間中のIPDは1例にみられたのみであった(接種998日後, 移植1,702日後)。

結論と考察

現在は移植後患者へのワクチンとしてPCV13接種が推奨されており, PPSV23単独接種の報告は1990年代のものが中心である。移植技術の向上に伴い, 近年は高齢者への移植も行われるようになっており, 1990年代よりも接種年齢が上昇しているにもかかわらず, 本研究では過去の報告と同等以上の抗体陽転化率を認めた。免疫原性の高さから, 近年は移植後の肺炎球菌ワクチンとしてPCV13を中心としたスケジュールが推奨されているが, より広い範囲の血清型をカバーできるPPSV23も引き続き有用である可能性を示した。

 

参考文献
  1. Kumar D, et al., Bone Marrow Transplant 41: 743-747, 2008
  2. Engelhard D, et al., Br J Haematol 117: 444-450, 2002
  3. Torda A, et al., Transpl Infect Dis 16: 751-759, 2014
  4. 日本造血幹細胞移植学会ガイドライン 予防接種第3版
    https://www.jshct.com/guideline/pdf/01_05_ vaccination_ver03.pdf
  5. Rubin LG, et al., Clin Infect Dis 58: e44-100, 2014
  6. Fukusumi M, BMC Infect Dis 17: 2, 2017
  7. 西 順一郎ら, IASR 35: 236-238, 2014
  8. Okinaka K, et al., Microbes Infect 19: 553-559, 2017

 

国立がん研究センター 中央病院造血幹細胞移植科
 冲中敬二 黒澤彩子 田島絹子 福田隆浩
大阪国際がんセンター 藤 重夫
大阪大学医学部附属病院感染制御部/大学院医学系研究科
 感染制御学講座 明田幸宏
国立感染症研究所感染症疫学センター 大石和徳

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version