国立感染症研究所

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水痘抗体保有状況:2014~2017年度感染症流行予測調査事業より

(IASR Vol. 39 p133-135: 2018年8月号)

はじめに

水痘ワクチンは高橋理明博士によって開発された日本発の弱毒生ワクチンであり, 国内では1987年から任意接種として接種が始まった。しかし, 接種率は30~40%程度と低く, 毎年約100万人が水痘に罹患していたと推定されている。そこで, 水痘の流行を抑制し, 重症水痘を予防することを目的として, 2014年10月から予防接種法に基づく定期の予防接種対象疾病(A類疾病)に導入された。定期接種の対象年齢は, 1歳の誕生日の前日から3歳の誕生日の前日までで, 接種回数は2回である。標準的には生後12~15か月までの間に1回目接種を行い, 2回目は1回目接種後3カ月以上あけて, 標準的には6~12カ月経過した時期に行うこととなっている。また, 2014年10月1日~2015年3月31日までに限っては, 3歳の誕生日当日から5歳の誕生日の前日までの幼児も定期接種の対象となった。ただし定期接種として受けられる回数は1回のみであった。

予防接種法に基づく感染症流行予測調査事業では, 国民の抗体保有状況等を把握することで, 効果的な予防接種施策の立案に役立てることを目的として, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況について調査を行っている。水痘の感受性調査(抗体保有状況調査)は, 2014年度に水痘ワクチンが定期接種に導入されて以降, 毎年度実施されている。

今回, 直近年度である2017年度を中心に, 4年間の結果についてまとめたので報告する。なお, 2017年度の結果は2018年3月時点の暫定値である。

調査対象

2014~2017年度の水痘感受性調査は下記の都府県で実施され, 水痘・帯状疱疹ウイルスに対するIgG抗体価の測定はEIA法を用いて各都府県衛生研究所において行われた〔2014年度(n=1,419):千葉県, 東京都, 京都府, 大阪府, 佐賀県, 2015年度(n=1,106):千葉県, 東京都, 京都府, 大阪府, 2016年度(n=1,124):千葉県, 東京都, 神奈川県, 大阪府, 2017年度(n=1,211):千葉県, 東京都, 神奈川県, 大阪府〕。なお, 被験者からの採血時期は, 毎年, 当該年度の7~9月である。

水痘EIA抗体保有状況

直近年度である2017年度の年齢/年齢群別の水痘EIA抗体保有状況を図1に示した。EIA法により抗体陽性と判定される抗体価4.0以上の保有状況についてみると, 0~5か月齢では母親からの移行抗体と考えられる抗体保有者が44%存在していたが, 移行抗体が減衰する6~11か月齢では0%であった。その後, 定期接種対象年齢である1歳で32%となり, 2歳で47%になった。定期接種が完了していると考えられる3~4歳群の抗体保有率は37%と低く, 5~6歳群でも40%と低いままで, 乳幼児期に多数の感受性者が残されていた。小学校低学年である7~9歳群でも抗体保有率は61%と低く, 小学校高学年~中学生の10~14歳群でも76%と低かった。15~29歳群で概ね90%となり, 30~54歳群で95%以上, 55歳以上で100%になった。

水痘EIA抗体保有状況の年度別比較

水痘ワクチンが定期接種に導入された2014年度調査は, 定期接種開始(2014年10月)直前の抗体保有状況を示す。定期接種開始後3年間の水痘EIA抗体保有状況(EIA抗体価4.0以上)とあわせて図2に示した。1歳児の抗体保有率は定期接種開始後上昇したが, 3歳以上14歳までの抗体保有率は定期接種化後3年を経過した2017年度調査が最も低かった。15歳以上では, この4年間に大きな差は認められておらず, 概ね90%以上の抗体保有率であった。

まとめ

2014年10月から始まった水痘ワクチン定期接種化に伴い, 小児の水痘患者数は大幅に減少し1), 特に, 定期接種対象年齢での水痘入院例が減少している2)。2017年度の抗体保有率をみると, 現在, 定期接種年齢およびこれまで定期接種年齢であった1~6歳群の抗体保有率は50%未満と低く, さらに7~14歳群にも多数の感受性者が蓄積されていた。水痘の流行が抑制され水痘罹患年齢が上昇すると, 重症化のリスクが高い15歳以上の水痘患者が増加することに繋がる。今後はさらに調査数・調査自治体数を増やして予防接種歴とともに解析し, 詳細に現状を把握するとともに, 小児に多数残された感受性者対策を検討する必要がある。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所 感染症疫学センター, IASR 37: 116-118, 2016
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/1005-disease-ased/sa/varicella/idsc/iasr-in/6331-436d05.html
  2. 国立感染症研究所, 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化 ~感染症発生動向調査より・第3報~
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/1593-disease-based/sa/varicella/idsc/idwr-sokuhou/7620-varicella-20171020.html

 

国立感染症研究所感染症疫学センター
 多屋馨子 佐藤 弘 大石和徳
同 ウイルス第一部
 山田壮一 西條政幸
2014~2017年度水痘感受性調査および予防接種状況調査実施都府県:
 千葉県, 東京都, 神奈川県, 京都府,大阪府, 佐賀県

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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