国立感染症研究所

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鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

(IASR Vol. 39 p200-202: 2018年11月号)

鳥インフルエンザウイルス

A/H5亜型ウイルス:高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染事例は, 2003年以降, 中東, アフリカ, アジアなど16カ国で860例が確認されており, そのうち454例が死亡例である(2018年7月20日現在)1)。2017年9月にインドネシアにてヒト感染事例の報告があったが, 以降, このウイルスによるヒト感染事例は報告されていない。家禽では, 2017年10月以降, カンボジア, バングラデシュ, ブータン, 中国,マレーシア, ネパール, インドにおいて流行が確認されている2)

近年は, NA亜型がN2, N5, N6, N8であるA/H5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスも世界各地の家禽や野鳥の間で蔓延しており, 日本国内においても2017年11月~2018年4月の間に, 野鳥や家禽からA(H5N6)ウイルスが検出されている。これらA/H5亜型ウイルスのうち, ヒトへの感染が確認されているのはA(H5N6)ウイルスだけであり, 2014年以降, 中国では21例(2017年10月以降は4例)のヒト感染事例が確認され, そのうち6例の死亡が報告されている(2018年10月4日現在)3,4)。ウイルス遺伝子の分子系統解析からA(H5N6)ウイルスのHA遺伝子はclade2.3.4.4に分類されるが, 他のウイルス遺伝子は, 中国で定着している他の亜型の鳥インフルエンザウイルスとの遺伝子再集合によって置き換わっており, 2017年以降に検出されたA(H5N6)ウイルスは, さらにユーラシア由来の鳥インフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が進んでいることが確認された5,6)。なお現時点では, ヒトに感染しやすくなるような遺伝子変異は確認されていない1)

A/H7亜型ウイルス:A/H7亜型の高病原性鳥インフルエンザは2017年10月以降, A(H7N3)ウイルスがメキシコの家禽の間で流行している2)。これまでのところ, このウイルスによるヒト感染事例は報告されていない。

また, 2013年3月に低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染事例が初めて中国で報告され, 第5波(2016年10月~2017年9月)以降は, 家禽に対して高病原性を示すように変異した高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染事例も報告されるようになった。2013年以降のヒト感染事例は1,567例, 死亡例は615例である(2018年10月4日現在)3,4)。これまでに32例の高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒト感染事例が報告されているが, ヒト感染における病原性やヒトからヒトへの感染伝播性など, ヒト感染のリスクは低病原性鳥インフルエンザウイルスと変わらないと考えられている。また, 第5波でのヒト感染事例数は過去最大となったものの, 第6波(2017年10月~2018年9月)では, 3例のヒト感染事例を確認するにとどまり, 2018年3月以降, ヒト感染事例は報告されていない。最近のA(H7N9)ウイルスのヒト感染事例数の急激な減少は, 家禽や環境中のサンプルでのA(H7N9)ウイルスの検出率の減少に起因すると考えられている7)

さらに, 2018年2月に鳥インフルエンザA(H7N4)ウイルスのヒト感染事例が, 世界で初めて中国で報告された。患者は, 冠動脈心疾患と高血圧を持つ68歳女性で, 家禽との接触後に深刻な肺炎を発症したものの, 治療により快復している。ウイルス遺伝子の分子系統解析の結果, 野鳥由来の低病原性鳥インフルエンザウイルスに由来していることが判明し, HA遺伝子は中国で蔓延しているA(H7N9)ウイルスとは異なることが明らかとなっている3,7)。この1例以外でヒト感染事例の報告はない(2018年10月4日現在)。

A/H9亜型ウイルス:近年, 鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染事例は中国およびエジプト, バングラデシュで散発的に報告されており, 2018年は中国で新たに4例のヒト感染事例が報告され, 2013年12月以降の中国国内でのヒト感染事例は20例となった(2018年10月4日現在)4)。いずれも症状は軽症で, 死亡例の報告はない。中国国内ではA(H9N2)ウイルスが家禽の中で定着しており, このウイルスに感染した家禽との接触により感染したと考えられている。

日本国内では鳥インフルエンザウイルスのヒト感染事例は報告されていないが, 周辺国では散発的なヒト感染事例が報告されている。また, 世界各地の家禽や野鳥では鳥インフルエンザが蔓延しており, それらのウイルスがヒトに感染する可能性は十分に考えられるため, 引き続き注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

ブタは鳥・ヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するため, ブタが交雑宿主となって遺伝子再集合により新たなウイルスを排出する可能性がある。現在世界的には, ブタの間で様々な遺伝的背景を持つA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環しており, これまでにも散発的にブタからヒトへの感染例が確認されてきた8)。ヒトに感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために “variant(v)viruses” と総称される。

北米大陸では1990年代後半から, それまでブタの間で循環していたclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスと, 鳥とヒト由来のインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こり, triple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環するようになった9)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは, このtriple reassortantウイルスとEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスで10), 2009年以降はA(H1N1)pdm09ウイルスがブタの間でも循環して, さらなる遺伝子再集合が起こっている11)。また, 2010/11シーズンのヒトの季節性A(H3N2)ウイルスと, ブタインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こっており12), 北米大陸のブタの間で循環するインフルエンザウイルスの遺伝的背景は複雑化している。米国において, 2005年12月以降2018年9月現在までに, 主に農業フェアなどにおけるブタとの接触をきっかけとした434例のA(H3N2)vウイルス, 21例のA(H1N1)vウイルス, 13例のA(H1N2)vウイルスのヒト感染事例が報告されている13)。なお, 2018年の最初のヒト感染事例は6月に報告されたが, 2010/11シーズンのヒトの季節性A(H3N2)ウイルス由来のHA遺伝子を持つA(H3N2)vウイルスの感染であったことが明らかとなっている3)。現時点でこれらvariant virusesの感染患者との濃厚接触による限定的なヒトからヒトへの感染事例はあるが, 継続的なヒトからヒトへの感染事例は報告されていない13)

日本では1970年代後半からclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環し始め14), その後ヒトのA(H3N2)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したA(H1N2)ウイルスが循環していたが15), 2009年以降は, A(H1N1)pdm09ウイルスとの間で遺伝子再集合が起きていることが明らかとなっている16,17)。日本ではこれまでブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例は報告されていないが, ブタインフルエンザウイルスの発生状況を引き続き注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. WHO, Cumulative number of confirmed human cases of avian influenza A(H5N1)reported to WHO
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/H5N1_cumulative_table_archives/en/
  2. OIE, Animal Health in the World, Avian Influ-enza Portal
    http://www.oie.int/animal-health-in-the-world/update-on-avian-influenza/2018/
  3. WHO, Monthly Risk Assessment Summary
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/HAI_Risk_Assessment/en/
  4. WHO Western Pacific Region, Avian Influenza Weekly Update
    http://www.wpro.who.int/entity/emergencies/ai_weekly/en/
  5. Lee YN, et al., J Vet Sci: Aug 30(in press), 2018
  6. Li-Hsuan Chen, et al., Emerg Infect Dis 24(6): 1147-1149, 2018
  7. WHO, Disease outbreak news
    http://www.who.int/csr/don/archive/year/2018/en/
  8. Lei Zhou, et al., WPSAR, doi: 10.5365/wpsar. 2017.8.1.001, 2017
  9. Lorusso A, et al., Curr Top Microbiol Immunol 370: 113-132, 2013
  10. Garten RJ, et al., Science 325(5937): 197-201, 2009
  11. Nelson MI, et al., J Infect Dis 213(2): 173-182, 2016
  12. Rajão DS, et al., J Virol 89(22): 11213-11222, 2015
  13. CDC, http://www.cdc.gov/flu/swineflu/variant-cases-us.htm
  14. Sugimura T, et al., Arch Virol 66: 271-274, 1980
  15. Nerome K, et al., J Gen Virol 64(Pt 12): 2611-2620, 1983
  16. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19(12): 1972-1974, 2013
  17. Kanehara K, et al., Microbiol Immunol 58(6): 327-341, 2014

 

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