国立感染症研究所

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青森県, 群馬県および熊本県を中心に検出されたRSウイルスに関する分子疫学解析

(IASR Vol. 39 p215-217: 2018年12月号)

1.概 要

RSウイルス(Respiratory syncytial virus: RSV)は, ニューモウイルス科・オルソニューモウイルス属のウイルスで, 乳幼児や高齢者に気管支炎や細気管支炎あるいは肺炎を引き起こす。また, 終生免疫が得られないため, 再感染を繰り返す。高齢者におけるRSV再感染は慢性肺疾患(喘息や慢性閉塞性肺疾患)の増悪にも関与している可能性があり1), 高齢者施設における施設内あるいは院内感染症の原因の一つになっている2,3)。RSV感染症の流行は, 地域によって異なり, 沖縄のような亜熱帯地域では, 夏季を中心に流行し, 本州においては, 秋季から冬季にかけて流行する傾向がある。青森県においては, RSV感染症の定点当たりの患者報告数は, 過去5年平均では8月頃から患者報告数が増加している。

RSVは, G遺伝子(attachment glycoprotein gene)の塩基配列を基盤とした分子系統解析により, 2つのサブグループ (RSV-AとRSV-B) に分類され, さらにRSV-Aは18種類(GA1-7, SAA1-2, NA1-4, CB-A, ON1-2およびTN1-24-9)), RSV-Bは24種類(GB1-4, BA1-13, BA-C, SAB1-4およびURU1-24-6))の遺伝子型に細分類することができる。また, RSV-Aでは, 日本やカナダ, マレーシア, 韓国ならびに南アフリカなど世界各国でNA1型を起源とする新しい遺伝子型であるON1型が流行している7)。近年, 国内外で検出されている主な遺伝子型は, RSV-AはNA1型とON1型で, RSV-BではBA型である。

今回, 国内外で検出されたRSVに関し, G遺伝子解析を基にした分子疫学解析を行った結果, 若干の知見を得たのでその概要を報告する10)

2.材料・方法

2009年9月~2010年4月に国内(青森県, 群馬県および熊本県)の医療機関において, 上気道炎, インフルエンザ様疾患, 気管支炎, 細気管支炎, 喘息細気管支炎および肺炎など呼吸器症状を呈する患者から採取した鼻咽頭ぬぐい液709検体のうち, RSVが検出された50検体を材料とし, G遺伝子C-末端超可変領域の塩基配列を解析した。RSVの遺伝子検出には, G遺伝子領域を増幅するプライマーABG490およびF164を用いた11)。さらにGenBank登録株を加え, 近隣接合法 (NJ法) による系統解析を行うとともに, pairwise distances(p-distance)解析, positive selection解析を行った。

3.結 果

NJ法によるRSV遺伝子(RSV-A 390bp, RSV-B 450bp)を系統解析した結果, RSV-Aは34株すべてがGA2型, RSV-Bは16株すべてがBA型に分類された()。また, RSV-AおよびRSV-Bはそれぞれ塩基配列およびアミノ酸配列の相同性が90%以上で相同性が高いことが示唆された。

p-distance解析の結果, RSV-AおよびRSV-Bは有意差がみられなかった。また, 解析部位のRSV-Bの進化速度(3.59×10-3 substitutions/site/year)は, RSV-A(1.92×10-3 substitutions/site/year)に比し速かった。

Positive selection解析の結果, RSV-Aは6部位(REL: Asn250Ser, Met262Glu, Arg297Lys, Arg297Glu, IFEL: Asn273TyrおよびLeu274Pro), RSV-Bは1部位(IFEL: Leu237Pro)が正の選択部位(dS>dN)として推定された。

なお, RSVが検出された50検体において, インフルエンザウイルス, ヒトパラインフルエンザウイルス, アデノウイルス, ヒトライノウイルス, ヒトメタニューモウイルス, エンテロウイルス, ヒトボカウイルスおよび細菌の遺伝子は検出されず, 単離もされなかった。

4.考 察

今回の結果より, 近年, 国内外で検出されているRSV-AのNA1型とON1型はGA2型から分岐しているため, 今回検出されたGA2型はNA1型とON1型に細分類される可能性がある。

RSV-AおよびRSV-Bはそれぞれ塩基配列およびアミノ酸配列の相同性が高いことから, 国内で同じ時期に検出されたRSウイルスの相同性が高いことが示唆された。

RSV-AおよびRSV-BのG遺伝子C-末端超可変領域における進化速度は, 非常に速いことが示唆された。

RSV-AおよびRSV-BのG遺伝子C-末端超可変領域において複数のアミノ酸置換が生じていることが示唆された。

これらのことから, RSVのG遺伝子C-末端超可変領域の変異は, RSV感染症の再感染に寄与する可能性がある。今後も地方衛生研究所によるRSVの継続的なウイルスサーベイランスが必要と考える。

 

参考文献
  1. Collins RL and Karron RA, In Fields Virology Vol.1, 6th eds, pp.1086-1123, 2013
  2. 永田紀子ら, IASR 35: 146-147, 2014
  3. 米田哲也ら, IASR 39: 126-127, 2018
  4. Parveen S, et al., J Clin Microbiol 44: 3055-3064, 2006
  5. Hibino A, et al., PLOS ONE 13: e0192085, 2018
  6. Obodai E, et al., PLOS ONE 13: e0203788, 2018
  7. Eshaghi A, et al., PLoS ONE 7: e32807, 2012
  8. Duvvuri VR, et al., Sci Rep 5: 14268, 2015
  9. Schobel SA, et al., Sci Rep 6: 26311, 2016
  10. Yoshida A, et al., J Med Microbiol 61: 820-829, 2012
  11. Sullender WM, et al., J Clin Microbiol 31: 1224-1231, 1993

 

青森県環境保健センター 筒井理華
熊本県保健環境科学研究所 清田直子
群馬県衛生環境研究所 小林美保
国立感染症研究所ウイルス第三部 竹田 誠
群馬パース大学大学院保健科学研究科 木村博一

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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