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成人百日咳抗PT-IgG抗体高値例の検討

(IASR Vol. 40 p13-14: 2019年1月号)

はじめに

2018年初より, 百日咳は5類感染症 (全数把握疾患) となり, 成人例についても届出が必要となった1)。百日咳の診断は, 臨床症状に加えて, 病原体の検出, PCR法またはLAMP法による病原遺伝子の検出, 抗体の検出のいずれかによるとされているが, 成人の症例では一般的に, 菌の培養やPCR法, LAMP法が施行されることは少なく, シングル血清での抗PT-IgG抗体価測定によりなされている。2018年第1週~第16週までに全国から届け出された百日咳症例のうち, 52%がシングル血清での抗体価高値によるものと報告されており, 成人症例の多くはここに含まれる2)

成人において, シングル血清での抗PT-IgG抗体が高値であった患者における臨床像を検討した。

対象と方法

2010年1月~2017年12月までの間に, 倉敷中央病院内科において, 抗PT-IgG抗体価を測定した15歳以上の患者824例のうち, 抗PT-IgG抗体が有意とされる>100 EU/mLを示した症例を抽出して, その臨床所見について診療録を用いて後ろ向きに検討した。

結 果

全例がシングル血清での検査であった。抗PT-IgG抗体が>100 EU/mLであったのは68例 (8.3%) であり, 男女34例ずつ同数であった。これらの患者の年齢分布をに示す。30代が最多であり, 40代, 20代が続いたが, 少数ながら高齢者も認められた。受診時の主訴は, 咳嗽の持続期間が3~8週の遷延性咳嗽が最も多く36例であり, 3週以内の急性咳嗽が22例, 8週間を超える慢性咳嗽が8例であった。主に小児の百日咳に特徴とされる咳嗽後嘔吐の症状が認められたのは5例であった。スタッカートやウープの有無は, 診療録上は確認できなかった。

患者背景として, 百日咳の家族内感染がみられたのが5例, 気管支喘息, 咳喘息の合併がそれぞれ10例と2例, マイコプラズマ感染とインフルエンザ罹患が各2例, アトピー咳嗽合併が1例, 誤嚥性肺炎例が1例にみられた。

治療状況では, 抗菌薬の投与が行われたのが34例 (うちマクロライド系抗菌薬33例), 抗アレルギー薬18例, 気管支喘息としてステロイド/長時間作用型β刺激薬の吸入が処方されたのが13例, 経口ステロイド薬投与が1例, 18例では鎮咳薬投与等の対症療法のみであった。

考 察

今回の検討では, 成人例においては, シングル血清での抗PT-IgG抗体高値であっても, 他の疾患と考えられた症例もあった。

経時的に抗PT-IgG抗体測定を行った既報3)によると, 抗PT-IgG抗体>100 EU/mLを呈した症例のうち, 経時的に<100 EU/mLに低下したのは全体の8%に過ぎず, 他の症例では高値が持続していたことが報告されている。

抗PT-IgG抗体測定の問題点としては, ペア血清が採られることは稀であること, ワクチン接種の影響を受けること, 感染早期では上昇がみられないこと, 高値が長期間持続する症例が多いことなどが挙げられる。シングル血清での高値単独によって, 百日咳の急性感染を診断することは困難と考えられ, 臨床症状と併せた総合的な判断, ペア血清採取の推進, LAMP法の導入が必要と思われる。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 感染症法に基づく医師届出ガイドライン (初版) 百日咳
  2. 国立感染症研究所, 2018年第1週から第16週 (*) に感染症発生動向調査 (NESID) に報告された百日咳症例のまとめ
  3. Sakakibara Y, et al., Intern Med 55: 3257-3263, 2016

 

公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院呼吸器内科 石田 直

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