国立感染症研究所

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全数把握疾患となった百日咳の生後6か月未満症例と成人症例の疫学

(IASR Vol. 40 p4-5: 2019年1月号)

乳児, 特に生後6か月未満の乳児は百日咳重症化のリスクが高いことで知られている。また, 百日咳は感染力が強く患者と家庭内で接触した者の90%が発症するといわれている。2018年1月1日から百日咳は5類の全数把握疾患となり, 届出対象が年齢を問わず百日咳の臨床的特徴を有しかつ検査所見により診断が確定された者, または検査確定例と接触歴があり百日咳の臨床的特徴を有する者となった。届出票の記載欄には, 症例の基本情報の他, 診断方法, 予防接種歴, 感染経路が含まれるようになり, 症例のより詳細な情報が得られるようになった。このような百日咳サーベイランスの変更に伴い, これまでの小児定点報告では正確な疾病負荷の把握が特にできていなかった生後6か月未満と成人の百日咳症例の疫学についてまとめた。

方 法

2018年第1週〜第39週 (1月1日〜9月30日) に感染症発生動向調査 (NESID) に報告された百日咳6,941例 (2018年10月3日暫定値) のうち, 重症化のリスクの高い生後6か月未満の届出症例に関して, 報告自治体を通じて臨床経過・推定感染源の詳細の問い合わせを行い, 得られた情報を発生動向調査記載内容とあわせて記述した。また, 成人 (20歳以上) の百日咳患者については調査記載内容についてまとめた。検査診断方法について複数の検査方法の記載がある場合, 診断の確からしさに基づいて分離同定>遺伝子検査>ペア血清>単一血清抗体価高値, の順に一つの診断方法を選択した。

生後6か月未満症例の疫学

6か月未満児の患者は323例 (全報告例の5%) の報告があった。月齢別にみた報告数は生後2か月にピークがあり, 初回百日せき含有ワクチン接種を行う生後3か月より幼い児が185例 (57%) であった。また生後3か月以上の症例においても, 未接種の症例を認めた (図1)。

症状・所見としては, チアノーゼが99例 (31%), 呼吸苦が79例 (24%), 無呼吸が75例 (23%), 肺炎が24例 (7%) であった。また, 入院の有無の情報が得られた233例のうち182例 (78%) が入院しており, 少なくとも8例は気管内挿管管理を必要とした。重症な症状・所見は低月齢ほど報告割合が高く, 0か月児13例においては呼吸苦8例 (62%), 無呼吸7例 (54%), チアノーゼ7例 (54%), 肺炎4例 (31%) が報告され, 情報が得られた12例全例が入院を要していた。

診断方法は274例 (85%) が遺伝子検査により, 次いで分離同定15例 (5%), ペア血清14例 (4%), 単一血清抗体価高値11例 (3%), 検査確定例との接触歴7例 (2%), 記載なし2例 (1%) であった (図2)。

6か月未満児の推定感染源は, 同胞が最も多く127例 (39%), 次いで両親 〔父親57例 (18%), 母親54例 (17%)〕, 祖父母17例 (5%) と報告されていた (重複あり)。その他, いとこ6例, おば5例, おじ, 同胞が通う保育園の保育士, 曾祖母, 他児の母親がそれぞれ1例, 推定感染源不明が62例であった。同胞を推定感染源と報告した症例のうち, 82例から同胞のより詳細な情報を得た。同胞の年齢が6歳以上であった症例が40例 (49%), 5歳以下の未就学児であった症例は32例 (39%), 残る10例は学童以上の児・未就学児を含む複数の同胞がいた。

成人症例の疫学

20歳以上の成人症例は1,650例の報告があった。年代別では20代241例, 30代384例, 40代499例, 50代206例, 60代以上320例と30〜40代に報告数のピークを認めた。診断方法は単一血清抗体価高値が最も多く1,266例 (77%), 次いで遺伝子検査253例 (15%), 検査確定例との疫学的リンクあり41例 (2%), ペア血清32例 (2%), その他の方法32例 (2%), 分離同定13例 (<1%), 記載なし6例であった。成人の家族内の推定感染源として記載のあった者は, 自身の子266例, 妻19例, 夫38例, 孫42例 (重複あり) であった。

考 察

百日咳サーベイランスの全数報告化に伴い, より正確な疫学と症例の詳細な情報が得られるようになった。生後6か月未満児においては, 百日咳が重症化しうることが改めて示唆される結果となり, 推定感染源として同胞の割合が高かったことから, この月齢の児を百日咳から守るために, 学童の百日咳感染予防策の検討は最重要課題である。また, これまで明確な疫学が不明であった成人層からも百日咳患者の報告があり, 特に子供が家族内にいる割合が高いと思われる年齢群からの報告数が多かった。感染源情報が得られた成人患者のうち, 最も多かった感染源が実子であったことから, 年長小児や思春期症例から家族内へ百日咳菌が持ち込まれた可能性が示唆され, 6か月未満児同様学童期を中心とした年齢群への百日咳対策が課題であることが示された。ただし, 全数報告変更初年度であるため, より正確な疫学情報の構築には今後もサーベイランスの分析が重要である。

本報告は必ずしも真の罹患率を反映していない。特に, 年長児や成人では症状が非典型的であるため, 診断されにくく, 疾病負荷が過小評価されている可能性がある。また, 発生動向調査における症例の情報は届出時点のものであることが多く, 重篤な症状や死亡の報告も実際より少ない可能性がある。実際にはさらなる疾病負荷を念頭に置いて百日咳予防策を検討することが求められる。

謝辞:百日咳の発生調査のまとめにあたり, 情報共有にご協力頂きました関係機関, 関係者の皆様に深謝いたします。引き続きご理解ご協力のほどお願い申し上げます。

 

国立感染症研究所
感染症疫学センター 神谷 元 高橋琢理 有馬雄三 砂川富正
実地疫学専門家養成コース 上月愛瑠 竹田飛鳥
細菌第二部 大塚菜緒 蒲地一成 柴山恵吾

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