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新潟県における小中学生を中心とした百日咳の流行, 2018年

(IASR Vol. 40 p6-7: 2019年1月号)

はじめに

百日咳は2018年1月, 小児科定点把握疾患から全数届出疾患に変更され, 診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届出を行うことになった。

当県では2018年4月中旬以降, A保健所管内の医療機関から百日咳の届出が相次いだ。 患者の多くが小中学生であったことから, 保健所では百日咳地域流行の発生に関して管内市町村および教育委員会に対し注意喚起を行った。本稿では, 流行の概要ならびに医療機関から提供された検体の検査結果について報告する。

流行の概要

A保健所管内において2018年4月中旬 (第14週)~7月上旬 (第27週) の期間に41名の患者発生が認められた。患者年齢の内訳は10歳未満 (学童) 10名, 10代27名, 30代4名であり, 患者の多くを小中学生が占めていた ()。主に学校での感染と推定され, 同胞や家族からの感染もみられた。持続する咳が41名全員 (100%) にみられ, 他に夜間の咳き込み29名 (71%), 嘔吐5名 (12%) が報告された。医療機関での診断方法は百日咳菌遺伝子の検出 (百日咳LAMP法) 33名 (80%), 単一血清による抗体価高値 (抗PT-IgGおよび百日咳IgM) 8名 (20%) であった。

検査方法および結果

当所に提供された8名の鼻咽腔ぬぐい液について培養検査および百日咳遺伝子検査を実施した。培養検査はボルデテラCFDN培地 (日研生物) を使用し, 35℃7日間培養した。遺伝子検査は国立感染症研究所 (感染研) から供与を受けた4PlexリアルタイムPCR試薬を用いて実施した1)

結果は8検体中培養陽性4例, PCR陽性6例で, 培養陽性の4例はすべてPCR陽性であった ()。培養陰性, PCR陰性の2例は医療機関で実施した百日咳LAMP法も陰性であった。発病から医療機関受診までの期間は2~7日 (平均5.5日), 検体採取後検査開始まで1~5日 (平均2.6日) であった。患者から分離された4株について感染研へ遺伝子型解析を依頼した結果, 4株いずれもMLVA型がMT27cであることが判明した。

考 察

百日咳は学校保健安全法において第二種感染症に定められており, 原則出席停止の措置がとられる。今回41名の患者調査では発病から受診までの期間は発病当日~30日 (平均5.7日) 空いていることが明らかとなり, この間に感染が拡大した可能性がある。

菌培養検査は特異性に優れるが, 感度はワクチン接種前の乳児患者でも60%以下と低く, ワクチン既接種者や成人患者からの菌分離はほとんど期待できないといわれている2)。さらに, 培養は検体採取後直ちに行うことが望ましいが, 当所では搬送の関係で検体採取後直ちに検査を開始できないことがある。今回の調査では, 採取後5日経過した検体からも百日咳菌が分離されており, 低温下での検体の適切な保管が重要であると考えられた。菌株の抗原産生解析や薬剤感受性試験などを行うためには菌分離が必須となるため, 直ちに検査開始できない場合でも検体提供を依頼する必要があると思われた。

百日咳菌のMLVA型は国内では近年MT27が主流となっており3), 本流行での分離菌株も4株すべてがMT27のサブタイプであるMT27cに分類された。このことから同一百日咳菌株が地域で流行したと推定された。

当県では2018年11月現在, 他の保健所管内で小中学生を中心とした百日咳の流行が続いている。学校等の施設では, いったん患者が発生すると感染が拡大し, 流行が終息するまでにかなりの期間を要する。ワクチン既接種者でも免疫効果は低下し感染が広がるという認識を周知し, 小中学生に患者発生があった場合, 地域で情報を共有し早急な受診・治療を促すなど感染拡大対策を講じることが重要である。

謝辞:検体の提供にご協力いただいた医療機関および県内の保健所の関係各位に感謝します。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル百日咳
  2. 蒲地一成, IASR 38: 33-34, 2017
  3. 衛生微生物技術協議会第39回研究会レファレンス等報告

 

新潟県保健環境科学研究所
 木村有紀 猪又明日香 青木順子 昆 美也子 紫竹美和子
国立感染症研究所細菌第二部 大塚菜緒

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