国立感染症研究所

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宮崎県における小・中学生を中心とした百日咳地域流行, 2018年

(IASR Vol. 40 p12-13: 2019年1月号)

はじめに

宮崎県内県央地域において, 2018年2~7月に小・中学生を中心とした百日咳の集団発生を経験したので報告する。

地域流行の概要

2018年2月下旬頃より県央地域のA小学校で, 同一学年における複数人が持続する咳症状で学校医を受診し, 相次いで百日咳と診断された。その後, クラス内, クラブ活動内, 家庭内を通じて感染が拡大し, 学内に限定した百日咳の集団発生から, 隣接するT中学校や同じ町内のB小学校にまで感染が拡大した。保健所と教育委員会より関係機関および家庭への注意喚起が行われ, 医療機関への積極的な受診が勧奨された。また医療機関を受診して百日咳が疑われた学童は検査結果を待たずに速やかに出席停止とするなどの措置がとられた。小児における百日咳の発生は4月, 5月をピークに, 6月に入り減少傾向となり, 7月に小学生を最後に終息した (図1)。

調査方法

2018年1月から百日咳は5類感染症の全数把握対象疾患に変更されている1)。2018年3月~8月末までの期間に流行地域において報告のあったサーベイランスデータをもとに, 届出報告数の推移, 診断法, 罹患年齢, ワクチン接種状況, 臨床症状について後方視的に調査した。

調査結果

期間中, 対象地域のすべての年齢を含んだ百日咳届出の全数は79例で, 流行は4月, 5月にピークを認めた (図1)。診断法についてはLAMP法2)による確定例が76例, 血清診断による確定例が1例, さらに臨床診断に加え検査確定例との接触から確定された2例であった。年齢の分布をワクチン接種歴とともに図2に示す。ワクチン接種歴は流行の中心であった小学生35例のうち4回接種が30例 (86%), 3回接種が3例 (9%) であった。一方, 乳幼児9例のうち未接種は6例 (67%) であった。臨床症状については, 全例に持続する咳を認め, ワクチン未接種者においては先述の乳幼児6例をはじめ, 百日咳の典型的な症状を認めたが重症例はなかった。ワクチン既接種例においては8歳以下の症状は比較的軽症であった一方で, 10歳以上では4回既接種者でも激しい症状を認める症例がみられた (図3)。流行期間中に入院を要した症例や乳児の重症例はみられなかった。また, 成人例では約半数が子供からの家族内感染と推察された。

考 察

先述の全数報告への制度改変により詳細な集団発生の実態が把握された1例である。それに加えて新たな検査診断法の一つであるLAMP法2)の導入も確実な早期診断, 早期の流行探知, 正確な疫学の把握に大いに寄与した。

今回の流行の中心は, 多くが百日咳含有ワクチン接種歴のある10~13歳の小学生高学年から中学生で, 乳幼児, 成人へと地域に感染が拡大した。幸いにも3か月未満の乳児の重症例や入院を要した症例はみられなかった。この事実より, 学童期の後半におけるワクチンによる免疫防御効果が減衰した可能性も推察され, より有効な百日咳含有ワクチンの追加接種の検討も必要と考えられた。

謝辞:本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進事業の支援によって行われた

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 感染症法に基づく医師届出ガイドライン 百日咳, 平成30年4月25日版, 2018
  2. Kamachi K, et al., J Clin Microbiol 44(5): 1899-1902, 2006

 

宮崎県立宮崎病院小児科 三原由佳
都農町国民健康保険病院小児科 坂元幸子
同病院内科 河野義明
福岡看護大学基礎・基礎看護部門基礎・専門基礎分野 岡田賢司

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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