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福島県における麻しんアウトブレイクについて

(IASR Vol. 40 p55-57: 2019年4月号)

はじめに

2015年3月に日本は麻しん排除国として世界保健機関(WHO)により認定を受けたが, その後も排除の状態を維持することを目標に定め, 麻しんに関する特定感染症予防指針(平成19年厚生労働省告示第442号)に基づき発生および, まん延の防止に努めている。予防指針では定期予防接種対象者の95%以上について2回の接種を完了することを目標としている。また, 発生した場合には原因究明のため原則として患者全例について, 地方衛生研究所(地衛研)でウイルス遺伝子検査等を実施することとなっている。

今回, 2018年6~7月に福島県県南保健所管内で10例の麻しんアウトブレイクが発生したのでその概要について報告する。

発生状況および検査結果

患者発生状況および検査結果をに示す。

10例すべて咽頭ぬぐい液, 血液, 尿の採取があり, 当所におけるreal-time RT-PCR法の結果, すべての症例から麻しんウイルス遺伝子が検出された。さらに, conventional RT-PCR法を実施し, 1症例を除くすべてから検出されたN遺伝子の増幅産物(450bp)について塩基配列を解析した結果, すべて一致し, 遺伝子型はB3型に分類された(図1)。

今回の一連の感染経路は, 当所における検査および保健所における疫学調査により, 以下のように考えられた(図2)。

初発患者である患者1は東南アジアからの外国人就労者で, 発症時に風邪と診断されたが, 症状が回復せずA医療機関を4日にわたり3度受診していた。患者7~9は, その際に診察した医療従事者や待合室にいた患者であり, 患者1からの二次感染が示唆された。

患者2~6は, 患者1と同じ職場に勤務しており, さらに, 患者2~5は患者1と同様, 東南アジアからの外国人就労者で, 同じ寮で生活していたことから, 職場内での二次感染が考えられた。

患者10は, B医療機関を受診し, 症状および遺伝子検査結果から麻しんと診断されたが, 患者1~9との関連性は特定できなかった。

まとめ

1. 今回実施した麻しんウイルスの遺伝子型の同定は, 感染経路特定への一助となった。現在も依然として, 国内では輸入例による麻しん発生報告が散発しており, 遺伝子型解析により感染経路を明らかにすることは, 麻しん拡大防止対策に重要である。

2. 麻しんウイルス遺伝子検査は, 主に咽頭ぬぐい液, 血液, 尿の3種類が用いられる。今回すべての事例において3種類の検体が採取されたが, 採取時期やウイルス量によっては, 遺伝子が検出されない場合もあり, 確実に診断するためには, できる限り3種類の検体を採取して検査することが望まれる。

3. 今回の事例では麻しん患者との直接的な接触はなかったにもかかわらず, 医療機関における待合室での空気感染が要因と思われる事例が確認され, 麻しんの感染力の強さを改めて認識した。

4. 症状について, 発症したすべての患者に37℃以上の発熱がみられたが, その他特徴的な症状である発疹は半数であった。麻しんは, 発熱・発疹感染症である風しんや伝染性紅斑等類似疾患も多く, 今回のように麻しんの可能性が疑われるまでに患者が同じ医療機関を複数回受診する例もあり, 類似疾患との鑑別の難しさが広域感染拡大につながる危険要因の一つとなる。

5. 本県の2017年度の麻しんワクチン接種率は, 1期94.6%(全国42位), 2期92.8%(全国37位) であった。今回, 患者のワクチン接種歴は10例中, 接種歴無しおよび不明が7例, 2回有りが3例であった。接種歴不明患者1からの感染が確認された一方, 2回ワクチン接種者からの感染は確認されず, 予防および感染拡大防止のためにも2回ワクチン接種は重要であり, 今後も予防指針が示す95%以上を目指し市町村等と連携しながら接種強化に取り組んでいく必要がある。

6. 麻しんの感染拡大防止には迅速な対応が必要となるため, 医療機関, 自治体, 地衛研の連携を強化し, 速やかな発生届出および病原体確認のための検体確保への周知徹底に努めていくことが重要である。幸い今回の事例では1保健所管内のみで広域感染拡大はみられなかったが, 他自治体の報告例をみる1-4)と感染が拡大した場合には国立感染症研究所等へ支援を仰いだ例もみられ, 広域連携を視野に入れた対応についても検討しておく必要がある。

 

参考文献

 

福島県衛生研究所
 塚田敬子 河野裕子 村山裕馬 斎藤 望 鈴木理恵
 熊田裕子 金成篤子
福島県県南保健福祉事務所 (福島県県南保健所)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan