国立感染症研究所

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海外の麻疹流行状況―2018年

(IASR Vol. 40 p63-64: 2019年4月号)

昨年2018年は, 229,068例の麻疹症例が世界保健機関(WHO)から報告されている。来る2020年までにWHOは, 分類する6地域のうち, 少なくとも5地域において麻疹および風疹を排除することを目標に掲げている。それを踏まえ本稿では, 2018年における各6地域の状況について報告する。

アメリカ地域(AMR):報告症例数1)は前年(847例)の20倍近い16,966例で, そのほとんどがブラジル, ベネズエラ両国からの報告であった。ブラジルでは10, 11月にかけて, アマゾナス州を中心に13名の死亡例を含む10,262例の流行が発生した(前年:0例)。ベネズエラでは, 2017年12月に727例の流行後, 1年近く症例報告がなかったが, 2018年12月に1~14歳以下の年齢層を中心に73名の死亡例を含む5,643例の流行が発生した。検出されたウイルス遺伝型は両国ともにD8型で, 両国の流行ウイルスはリンクしていたことが確認されている2)。麻疹排除を2000年に達成した米国からは, 排除以来最大の輸入症例(791例)が報告された。特にニューヨーク州, ニューヨーク市, ニュージャージー州より報告された症例は, ワクチン未接種者を中心として発生し, 検出されたウイルス遺伝子型は, D8型, B3型, D4型であった。ウイルスはイスラエルやその他の流行地域からの帰国者や旅行者を介して伝播した3)

ヨーロッパ地域(EUR):症例報告数4)は前年比の3倍弱となる72,679例(前年:25,863例)で, ウクライナ(44,436例), セルビア(5,461例), フランス(2,921例), イタリア(2,548例), ギリシャ(2,538例), ロシア(2,301例), イスラエル(2,207例), ジョージア(1,781例), アルバニア(1,405例), ルーマニア(1,346例) の10カ国だけで症例報告数の92%を占めた。伝播しているウイルス遺伝子型はB3型, D8型であった。大流行が発生したウクライナ, セルビアの感染者の年齢構成をみると, ウクライナからはすべての年齢層から多くの症例が報告された(1歳未満:2,328例, 1~4歳:7,350例, 5~9歳:9,005例, 10~14歳:5,966例, 15~19歳:5,111例, 20~29歳:7,308例, 30歳以上:7,368例)。一方, セルビアにおける感染者年齢層の大部分は, 20歳以上(ワクチン歴不明)と14歳未満(ワクチン未接種) であった。

西太平洋地域(WPR):症例報告数1)は, 23,607例で, 前年の約2倍に増加した(前年:11,095例)。最大の流行はフィリピンで発生し, 次いで中国, マレーシア, ベトナムの順に1,000例以上の報告があった。フィリピンからは, 前年(2,407例)の約7倍に相当する15,599例が報告され, 感染者の80%以上が9歳以下の児童で, そのほとんどがワクチン未接種または接種歴不明であった。中国は, 前年5,999例の報告があったが, 本年は3,861例の報告にとどまった。マレーシアおよびベトナムでは, 前年よりも報告数が増加していた(マレーシア:1,693例→2,510例, ベトナム:591例→1,177例)。伝播しているウイルス遺伝子型は, フィリピンではすべてB3型, 中国ではH1型とB3型(主はH1型), マレーシアではB3型, D8型, ベトナムではすべてD8型であった。なおWPRでは, オーストラリア, ブルネイ, カンボジア, 香港, マカオ, 日本, ニュージーランド, 韓国, シンガポールが麻疹排除認定を受けている。

南東アジア地域(SEAR):2017年(79,363例)に続き, 2018年も大きな流行1)が発生していた(73,133例)。当地域における最大の流行国はインドで, 報告症例数は全体の84%を占めていた(61,120例, 前年:60,468例)。インドでは, 麻疹含有ワクチンの第1期, 第2期接種率5)がWHOの推奨する接種率(95%以上) に達しておらず, 感染者の多くは若年層であった。次いで報告症例数の多い国は, タイ(4,791例, 前年:2,033例), インドネシア(3,955例, 前年:11,389例), バングラデシュ(1,955例 前年:4,001例), ミャンマー(943例, 前年:1,285例)であった。伝播しているウイルス遺伝子型は, インド:D8型, タイ:B3型, D8型, インドネシア:B3型, D8型, バングラデシュ:B3型, D8型, ミャンマー:D8型, H1型であった。

東地中海地域(EMR):症例報告数1)は21,905例で, 前年より増加していた(前年:12,777例)。大きな流行は, イエメン(8,742例), スーダン(4,161例), パキスタン(3,041例), アフガニスタン(1,891例) より報告され, 感染者の多くは, 9歳以下の小児であった。これら4カ国における麻疹含有ワクチンの第1期, 2期接種率は95%を下回っており, 2017年のデータでは, イエメン:第1期 65%, 第2期 46%, スーダン:第1期90%, 第2期72%, パキスタン:第1期76%, 第2期45%, アフガニスタン:第1期62%, 第2期39%となっていた。伝播しているウイルス遺伝子型はB3型, D8型であった。

アフリカ地域(AFR):33,879例の症例報告数1)があり(前年:24,874例), 1,000例を超す症例報告数があった国は, ナイジェリア(6,593例), コンゴ共和国(5,336例), マダガスカル(4,391例), ウガンダ(2,530例), リベリア(1,902例), ブルキナファソ(1,631例), ニジェール(1,440例), エチオピア(1,351例), ガーナ(1,004例) であった。報告数の多いナイジェリアおよびコンゴでは, 感染者の多くが9歳以下の児童で, 2017年における麻疹含有ワクチンの第1期接種率5)は, 各々42%, 70%, 第2期接種に至っては, 実施されていなかった。次いで報告数の多かったマダガスカルでは, 感染者の多くが24歳以下, 麻疹含有ワクチンの接種率(2017年)は, 第1期が58%, 第2期は未実施であった。伝播しているウイルス遺伝子型はB3型で, 南アフリカ共和国からはD8型も報告されている。

 

参考文献

 

国立感染症研究所ウイルス第三部
 染谷健二 大槻紀之 竹田 誠

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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