国立感染症研究所

IASR-logo
 

埼玉県, 東京都, 茨城県および福島県から報告された同一の遺伝子型の腸管出血性大腸菌O157:H7による感染症・食中毒事案について

(IASR Vol. 40 p74-75: 2019年5月号)

Ⅰ はじめに

2018(平成30)年5月25日以降, 埼玉県, 東京都, 茨城県および福島県で報告された腸管出血性大腸菌O157による食中毒・感染症の事案のうち, 9件について同一の遺伝子型であったことが確認されていた。関係地方自治体が行った感染症法および食品衛生法に基づく調査の結果から, 野菜が原因と疑われ, 関係者の協力を得て, 生産施設における衛生管理の改善を進めた。また, 同6月15日付けで全国の地方自治体を通じ, 野菜等を生で喫食する際には, よく洗うこと, 高齢者, 若齢者, 抵抗力の弱い者を対象とした食事を提供する施設に対しては, 野菜, 果物を加熱せずに供する場合には殺菌を行うよう改めて指導を徹底すること等を通知した。

今般, 上記の事案について広域的な食中毒事例として報告する。

Ⅱ 事案の概要

2018(平成30)年5月25日以降, 埼玉県, 東京都, 茨城県および福島県で報告された腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)患者のうちサンチュが提供された9件の事案で検出された菌株の遺伝子型が同一であった。これらの患者の喫食状況調査, 検食の検査結果等から, 同一の生産業者から出荷されたサンチュが汚染原因と疑われたため, 厚生労働省は千葉県を通じ当該生産者に対し, 出荷自粛, 自主回収の要請を行い, 加えて消費者に対し事案の公表を行った。調査の詳細は以下の通り。

(1)6月3日, 埼玉県が県内の高齢者施設で5月21日の夕食(鶏肉のみそ焼き(鶏もも味噌漬け, サンチュ), かぼちゃ煮, しらす和え(刻みおくら, しらす干し), すまし汁)を原因とする食中毒について公表。同施設に保存されていた開封済みのサンチュから腸管出血性大腸菌O157:H7を検出した。

(2)埼玉県の高齢者施設に食材を納入した事業者は, 同じ食材を他の76施設に納入しており, うち, 茨城県, 東京都, 埼玉県の高齢者施設6施設で同一の遺伝子型の腸管出血性大腸菌O157による患者, 無症状病原体保有者を確認した。

(3)上記サンチュは同一の生産業者から出荷されており, 上記食材を納入した事業者とは別の経路で流通した福島県内の温泉施設を利用した患者等からも同一の遺伝子型の腸管出血性大腸菌O157:H7を検出した。

(4)一方, 当該生産業者の従事者検便, 使用水, サンチュおよび拭き取り検査において, すべてO157は検出されておらず, サンチュが出荷時点で汚染されていたとは断定できていない。また, 当該生産業者から感染症・食中毒事例が発生した施設に流通したサンチュの量は出荷量の約4%の一部であり, 他の流通先での患者発生の報告はない。以上のことから当該サンチュが一連の事案の原因食品とは断定できない。

(5)一方, 厚生労働省からの要請を踏まえ, 千葉県から当該生産業者に対し出荷自粛の要請を行い, 当該生産業者は6月12日から出荷を自粛。当該生産業者は, 自粛要請期間中に改善に向けた取り組みを実施し, 6月25日, 生産者に対して行った出荷自粛要請について, 改善措置が講じられたことから解除を行った。

Ⅲ 調査結果等

1. 患者等の情報:, 図1

同一生産者のサンチュの提供があった9事例では, 6月22日までに合計20名の患者について血便等の症状が認められ, 遺伝子型検査の結果, 9事例の患者の菌株の遺伝子型がサンチュから検出された菌株の遺伝子型と一致した。

2. サンチュの流通経路:図2

Ⅳ 対応

関係地方自治体が行った当該遺伝子型の腸管出血性大腸菌による感染症および食品衛生法に基づく調査結果を踏まえ, 腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生および拡大防止の観点から, 厚生労働省は同年6月15日付けで, 「腸管出血性大腸菌食中毒の予防対策等の徹底について」を発出した。通知の内容は下記の通り。

1. 野菜等は生で食べるときにはよく洗うことを注意喚起すること。

2. 特に, 高齢者, 若齢者および抵抗力の弱い者を対象とした食事を提供する施設に対しては, 引き続き, 腸管出血性大腸菌による食中毒を予防する観点から, 野菜および果物を加熱せずに供する場合(表皮を除去する場合を除く)には, 殺菌を行うよう改めて指導を徹底すること。※「大量調理施設衛生管理マニュアル」(平成9年3月24日付け衛食第85号(最終改正:平成29年6月16日付け生食発0616第1号)の別添)

3. 農林水産省に対して野菜等の衛生管理に関して協力を要請したので生産部局と適切に連携すること。

 

厚生労働省 医薬・生活衛生局食品監視安全課
食中毒被害情報管理室

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version