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那覇市の風疹第5期定期接種の現状と課題について

(IASR Vol. 40 p139-140:2019年8月号)

1.背景:沖縄県の風疹の歴史

沖縄県では, 1964年からの風疹大流行により1965年までに408人の先天性風疹症候群(CRS)の出生があった(全出生数の約2%)。当時, 沖縄県の妊婦の25~30%が風疹に感染したと推計された1)。2012~2013年の流行では全国で16,730人の風疹患者と45人のCRSが報告された。沖縄県では98人の患者が確認されたものの, CRSの出生はなかった。2018~2019年の流行では沖縄県で27人の患者が確認されているが, CRSの出生は報告されていない。

2.風疹第5期定期接種事業開始までの経過

2018年後半からの全国的風疹流行を受けて, 厚生労働省(厚労省)は同年12月13日に「風しんに関する追加対策 骨子」を発表。風疹抗体検査を前置きした第5期定期接種が柱である。2019年2月1日に, 改正された予防接種法施行令と定期接種実施要領が公布された。

4月26日に那覇市(市)健康増進課は本事業のクーポン券を対象者に発送した。また同日, 同課のWEB上に事業案内サイトを開設し, 実質的に事業を開始した。

3.那覇市の事業開始後の現状

クーポン券を発送した2019年度の対象者は1972年4月2日~1979年4月1日生まれの男性で, 市では16,625人であった。市内の本事業実施医療機関は76機関。このうち, 少なくとも6健診機関では定期健診と同日での抗体検査実施が可能となっている。

市民への周知および広報については, まず, 市内全世帯に配付される「なは市民の友」5月号で案内した。また, 商人塾や商店街事務連絡会などの集会や, 事業者・事業所組合の感染症対策研修会等で個別案内をしている。電子的には前述のWEBサイトでの案内に加えてSNSで適宜案内している。

市職員に対しては, 2018年前半の麻疹集団発生2,3)や同年後半からの風疹流行の際に予防接種勧奨を積極的に行っていた。今回の事業についても改めて周知するとともに, 受検・接種勧奨を行っている。救急隊員含む消防職員については, 「救急隊の感染防止対策の推進について(通知):平成31年3月28日」の中で予防接種勧奨がされていることもあり, 受検・接種が徹底される見込みである。

対象者への個別啓発については, クーポン券発送に引き続き, 適切な時期にハガキでの再勧奨通知を予定している。

4.課 題

重要と思われる課題を2つ挙げる。

1:沖縄県の風疹抗体価の特徴:35~39歳の抗体保有率が70%未満

感染症流行予測調査によると, 沖縄県の35~39歳男性の風疹抗体(HI抗体価8倍以上)保有率は2013年68%, 2016年67%()と70%を割り込んでいる。この年代の半分ほどは今回の対象からはずれていると思われる。

2:働き盛り世代の低い健診・検診受診率

市の40~50代男性の特定健診受診率は20%台と低く, がん検診受診率も国の受診率目標値の半分程度に留まっている4)。この世代の受診意識の低さが受診行動の低さにつながっていると思われる。

市の今回のクーポン発送対象者の抗体保有率を80%と仮定した場合, 厚労省が掲げる目標(2020年7月までに85%)を達成するには, 少なくとも831人以上が陽転化する必要がある。すなわち, 抗体不十分の方の50%が予防接種を受けると仮定して, 少なくとも8,310人(50%)以上の抗体検査受検が必要である。前述の低い健診・検診受診率を考慮すると目標達成はかなり難しい。

5.課題への対応策

前記の課題への対応策として, 1)特定感染症検査等事業に基づく抗体検査の強化, 2)麻疹対策との連携, 3)職域(産業)保健との連携等が挙げられる。

1)について, 市では2018年度から妊娠を希望する女性とその同居者を対象とする風疹抗体検査事業を再開し継続している。2019年度からは沖縄県も再開することから対策がより強化される。

2)については, 沖縄県が2019年度より「はしか等輸入感染症緊急特別対策事業」を開始する。前年の麻疹集団発生を受けての緊急対策である。対象は20~49歳の男女で, 麻疹抗体検査(半額)と予防接種(全額)の費用を助成する。予防接種は麻しん風しん混合(MR)ワクチンである。今回の風疹対策の対象外の男性, また上記1)の対象外の男性も対象となることから風疹対策も強化される。

3)については, 職域保健の中心となる産業医や労働局との連携が必要である。2019年2月1日付けで厚労省は関係機関に今回の事業への協力依頼を通知した。日本医師会には感染症危機管理対策室長宛に通知しており, 産業保健担当理事に共有されているか不明である。従って, 本事業に関する産業医の役割については明確になっていないと思われる。各職域団体への通知は, 労働基準局長連名となっており, 各職域での一定の協力が期待できる。

厚労省は, 風疹が流行し始めた2018年10月2日に都道府県労働局労働基準部長宛に「職域における風しん対策について(協力依頼)」を通知している。この通知が機能していれば各職域現場での本事業への協力も期待できる。

今回の事業では, 職域における特定健診や事業所の定期健診の機会の活用が推奨されている。那覇市は, 産業医や労働局と連携しながら職域においても本事業を推進することにより, 課題に対応していきたい。

 

参考文献
  1. Ueda K, et al., Am J Epidemiol, 107(4): 344-351, 1978
  2. 那覇市保健所保健総務課:2018年(平成30年)那覇市麻疹対応経過報告書, 2018年7月
    https://www.city.naha.okinawa.jp/nahahokenjyo/kansensyou/kansensyoubetu/mashin20190625.html
  3. 沖縄県保健医療部地域保健課:沖縄県における外国人観光客を発端とした麻しん集団発生と終息に向けた行政対応 (2018年) 報告書 (沖縄県)
    https://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/chiikihoken/kekkaku/kansenshou/masinhoukokusyo2018.html
  4. 健康なは21 (第2次):平成28年3月
    https://www.city.naha.okinawa.jp/nahahokenjyo/kenkoudukuri/kenkonaha21vol2.html

 

那覇市保健所
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