国立感染症研究所

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水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化 ~感染症発生動向調査より・第2報~

(IASR Vol. 37 p. 116-118: 2016年6月号)

水痘は水痘-帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus; VZV)の初感染で発症し, 小児の比較的軽症の感染症と捉えられがちであるが, 将来の帯状疱疹の発症リスクや様々な合併症を伴うことがある。成人や妊婦, 免疫不全患者等は重症化のリスクが高く時に致命的で, また胎児, 新生児にも影響しうる。また, VZVは空気感染し, 高い感染性を有する(基本再生産数R0 8~10程度1))。その高い感染性から院内感染対策における課題でもある。

2014年10月1日から水痘が定期接種対象疾患(A類疾病)として, 生後12~36か月に至るまでの児を対象に水痘ワクチン2回の接種が定期接種として導入された(2014年度生後36~60か月に至るまでの児にも1回接種の経過措置)。

また, 水痘は感染症法に基づく5類感染症定点把握疾患および入院例については全数届出疾患(2014年9月19日より)に位置づけられ, 全国約3,000カ所の小児科定点における患者数と全国の医療機関への入院例のサーベイランスが行われている。

定期接種化以後, 2015年第17週までの水痘入院例の報告状況を以前本誌で報告した2)。今回, 定期接種化から1年半が経過し, 両報告から水痘発生動向の概要を記述した 〔感染症サーベイランスシステム(NESID)より(2016年4月22日暫定値)〕。

小児科定点報告

2005年第1週~2016年第13週の患者報告数, 年齢分布をに示す。2015年の小児科定点当たり週平均報告数は0.46/週 (範囲0.22~0.1/週) で, 2005~2014年の年平均0.96~1.69/週 (範囲0.35~3.15/週) を下回った。年齢分布は, 2005~2011年はほぼ一定で, 0~4歳が約75%を占めたが, 2012年以降減少し, 2015年は53.5%まで低下した。

水痘入院例全数報告

2014年9月19日(第38週)~2016年第13週の報告数, 年齢, 症状, 予防接種歴を抽出した。

報告数は521例(女性216例, 41.5%), 年齢中央値27歳(範囲0~90歳)であった。四半期ごとの週平均報告数を年度比較すると, 2014, 2015年の第4四半期間では, 全体数は9.53/週から6.07/週へ, 年齢群別では0歳1.07/週から0.21/週, 1~2歳1.47/週から0.29/週へ減少し, 全体に占める割合も減少した。3~4歳も0.73/週から0.36/週と変化した。一方5~9歳, 10代はほぼ横ばいであった。20~40代は各期で全体の29~50%を占め, 205例が報告された。50歳以上の報告例には播種性帯状疱疹の可能性が記載された症例もあった。

合併症報告は103例, 延べ136件あった。合併症の内訳は膿痂疹26例, 肺炎気管支炎22例, 肝炎22例, 熱性けいれん14例, 脳炎・髄膜炎20例, 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)2例, 小脳失調2例, 根神経炎1例等神経合併症, DIC 8例, 多臓器不全5例, 内臓播種性水痘2例等の全身合併症などがあり, 死亡例が3例報告された。1~2歳の症例も16例含まれたが, うち14例は2015年第1四半期までの報告であった。

予防接種状況は, 接種歴なし199例, 1回接種49例, 2回接種10例, 接種あり(回数不明)5例(0歳を除く, ほか不明)で, 多くが未接種もしくは1回接種であった。

考 察

2014年10月の定期接種化以降, 小児科定点報告数は過去10年間で最も少ない数で推移しており, 感染症発生動向調査週報(http://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2016.htmldl/2016.html)により明確に示されている。今回, 年齢群別に検討し, 小児科定点報告および入院例全数報告ともに0~2歳の報告数とその割合の減少を認めた。

定期接種対象年齢を中心とした報告数の減少の背景に水痘ワクチン普及が寄与した可能性が示唆された。感染症流行予測調査(http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/6358-varicella-yosoku-serum2015.html)では, 2014年に比較し2015年で1~2歳の抗体保有率の上昇が示されている。0歳は接触機会が多い幼児の罹患状況に影響されやすいことが考えられ, 間接効果による減少の可能性が推察された。

また, 高齢者では播種性帯状疱疹と水痘の鑑別が課題と考えられた。ペア血清によるIgG抗体陽転化などが鑑別に有用となる。

入院例のうち定期接種対象年齢以上の年齢群が占める割合も大きかった。年長児や成人の感受性者の蓄積は, 一度水痘が発生するとアウトブレイクの可能性と重症化のリスクとなる。今後は現在の定期接種対象年齢以外の年代の未罹患者においてもワクチン接種による予防が望まれる。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいた各関係機関の皆様に深謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Fine PE, et al., Community immunity, In Plotkin S, et al. (eds), Vaccine, 6th ed, Elsevier, Philadelphia, 2013: 1395-1412
  2. IASR 36: 143-145, 2015 http://www.niid.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-iasrs/5682-pr4241.html
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