国立感染症研究所

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デング熱ワクチンに関するWHO position paper, 2018年9月

(IASR Vol. 39 p226: 2018年12月号)

世界保健機関(World Health Organization, WHO)は, デング熱ワクチンCYD-TDV(Dengvaxia®)に関するposition paperを改定した〔前版:WHO, WER 91(30): 349-364, 2016〕。この改定は, 新しい血清診断法(ELISA法による抗デングウイルスNS1 IgG抗体測定)により明らかになった, 抗デングウイルス抗体陰性のワクチン接種者は抗体陰性のワクチン未接種者と比較してより重症なデング熱を発症するという研究結果を受けて行われたものであり, 主にワクチン接種対象者の記載が更新された。

デング熱は熱帯・亜熱帯地域において流行し, 年間の感染者数は3億9,000万人, 発症者数は9,600万人, 死亡者数は2万人と推定されている。1~4型の4つの血清型があり, 感染により産生される抗体は交差反応性をもつ。感染者の約75%は軽症か無症候で, 代表的な症状に発熱・発疹・関節痛がある。初回とは異なる血清型のウイルスに2回目に感染すると重症化するリスクが知られており, 3回目以降の感染では多くの場合, 症状は軽い。慢性化やキャリア化することはない。

CYD-TDVは4価の組換え弱毒生ワクチンで, 接種回数は3回, 接種間隔は6カ月で皮下接種で投与する。2~16歳を対象とした第III相試験において, CYD- TDVのデング熱に対するvaccine efficacy(VE)は60.3%〔95%信頼区間(CI): 55.7-64.5〕であり, 9~16歳の年長児(VE: 65.6%, 95%CI: 60.7-69.9)の方が2~8歳の年少児(VE: 44.6%, 95%CI: 31.6-55.0)より効果が高かった。また, 抗デングウイルスNS1 IgG抗体(ELISA法)陽性群ではデング熱ワクチン接種者の方が未接種者より重症デング熱に罹患する頻度が低く, 抗体陰性群ではワクチン接種者の方が未接種者より重症デング熱に罹患する頻度が高かった()。この理由は分かっていない。

デング熱対策としてワクチン接種を考慮する国では, 抗体陰性者がワクチン接種を受けることにより重症デング熱を発症するリスクについて検討するべきである。接種前スクリーニングを行い, デング熱の既往が確認された者(抗体陽性者, またはデング熱が検査診断された既往のある者)のみにワクチン接種を行う方法を推奨する。スクリーニングを行わない場合は, 9歳までの血清抗体陽性の割合が80%以上の地域においてワクチン接種を考慮すべきである。またデング熱流行国への旅行者のうちデング熱の既往が確認された者に対してはワクチン接種が考慮される。

 

〔WHO, WER 93(36): 457-476, 2018〕
(抄訳担当:感染研・新橋玲子)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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