国立感染症研究所

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ノロウイルスによる食中毒事例―愛媛県

(IASR Vol. 34 p. 265-266: 2013年9月号)

 

2013年5月に愛媛県内の飲食店においてノロウイルス(NoV)GIIによる食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

5月27日、医療機関から「下痢、嘔吐、発熱等を呈する患者5名を診察した」と八幡浜保健所に連絡があった。同保健所で感染症および食中毒の両面から調査したところ、管内のビジネスホテル内飲食店で会食した7グループ132人のうち5グループ63人、同飲食店が調理した弁当を喫食した1グループ46人のうち25人および同ホテル宿泊客44人のうち22人が、25日から下痢、嘔吐、発熱等の食中毒様症状を呈し、うち58人が医療機関を受診し、1人が入院した。潜伏時間は17.5~118時間で、36~48時間をピークとする患者発生パターンを示した。当所に搬入された、患者糞便19件、調理従事者等糞便21件について、リアルタイムPCR法によるNoVの遺伝子検出を実施した結果、患者糞便16件(84.2%)、調理従事者等糞便8件(38.1%)からNoV GIIが検出された。

今回の事例では、患者に共通する食事は当該飲食店が提供した食事のみであること、患者および調理従事者の糞便からNoVが検出され、患者の症状、潜伏時間等の疫学調査結果と同ウイルスによる食中毒の特徴が一致することから、本事例を同飲食店が提供した食事を介して発生したNoVによる食中毒と断定した。

NoVが検出された患者および調理従事者等の検体について、カプシドN/S領域を増幅するプライマーを用いてPCR増幅後、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、系統樹解析を実施した。その結果、実施した検体はすべてNoV GII/4に型別され、塩基配列は100%一致していた(図1)。さらに、ポリメラーゼ(Pol) 領域からカプシドN/S領域およびカプシドP1/P2領域を増幅し遺伝子解析を行った結果(図2図3)、用いた株は、すべて既知のGII/4変異株とは異なる新しいクラスターに分類され、Pol領域(699bp)、カプシドP1/P2領域(624bp)とも100%一致し、Sydney/NSW0514/2012/AU(JX459908)とPol領域で98.9%、カプシドN/S領域で100%、カプシドP1/P2領域で98.1%の高い相同性を示した。また、これらの株は、Pol領域ではOsaka1/2007/JP 2007aに最も近縁(相同性94.3%)であり、カプシド領域ではApeldoorn317/2007/NL 2008aに最も近縁(相同性N/S領域97.2%、P1/P2領域94.2%)であったことから、Pol領域とカプシド領域の間で遺伝子組換えを起こしたウイルスであると考えられた。2012年10月以降に県内で検出されたGII/4の新しい変異株と本事例から検出されたGII/4株は極めて近縁(相同性98.4~100%)であった。

今回、消化器症状がみられない調理従事者からノロウイルスが検出されたことから、不顕性感染者の存在にも留意が必要であることを改めて認識した。

 

愛媛県立衛生環境研究所   
     青木里美 菅 美樹 山下育孝 服部昌志 大倉敏裕 四宮博人  
八幡浜保健所   
     徳永貢一郎 福田裕子 河瀬 曜 垣内恭子 望月昌三 堀内道生 武方誠二

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