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奈良県における2016/17シーズンのノロウイルス検出状況

(IASR Vol. 39 p11-13: 2018年1月号)

はじめに

2016/17シーズンにおいて, 奈良県では感染性胃腸炎の定点報告数が, 第43週 (2016年10月24日~30日) 頃より増加し, 第46週(11月14日~20日)には23.7と警報開始基準値20を超え, 2006年第47週以来10年ぶりに感染性胃腸炎の警報発令となった。ほぼ同時期より集団感染性胃腸炎事例〔食中毒(疑)等を含む〕も増加し, シーズン開始後の10月~12月までで30事例(前年同時期:17事例)発生し, 1事例当たりの患者数も多いことから, 患者数合計は速報値で1,300人以上(前年同時期:360人)となった。既報によれば, 秋季から冬季にかけてウイルス性の感染性胃腸炎患者から検出されるのはノロウイルス(NoV)が多いとされる1)。本稿においては, 当該シーズンに, 乳幼児・学童(乳児園, 保育園, こども園と幼稚園), 成人胃腸炎集団発生(福祉施設)および食中毒事例から検出されたNoVの疫学的・遺伝学的解析結果の概要について述べる。

事例・材料および方法

2016/17シーズン中には, 38事例の集団胃腸炎事例が発生した。そのうち, 34事例ではNoVが原因と判明しており, 他に1事例がサポウイルス, 残りの3事例はA群ロタウイルスと推定された。NoVが原因とされた34事例の発生施設は, 乳児園・保育園およびこども園など(範囲0~6歳)14事例, 幼稚園など(同3~6歳)8事例, 小学校(同6~12歳)6事例, 福祉施設(同44~57歳)1事例および飲食店での食中毒(疑い含む)5事例であった。警報発令となった11月を中心に10月15日~12月15日の間に28事例(82%)発生し, その後急速に減少した。

NoVが原因とされた集団胃腸炎事例34事例のうち24事例について当センターにて解析を行った結果, 22事例からGII.2, 食中毒疑い事例の2事例からGII.4が検出された。そこで, 2016/17シーズンの流行の中心となったGII.2について, プライマーウォーキング法により, RdRp領域約1,300bp, VP1領域約1,600bpの塩基配列を決定した2)。また, これまでに本県で検出したGII.2(小児科病原体定点からの検体含む。)についても同様の解析を実施した。解析株は, 同シーズンに他の自治体で検出された参照株などとともに, GenBankから塩基配列を収集し, 各領域別にMEGA6.0を用いて最尤法(ML法)により系統樹を作成した。さらに, このプライマーウォーキング法で塩基配列を決定できなかった株については, Yuri22F/G2SKRのプライマーセットにより塩基配列を決定し, Norovirus Geno-typing Tool Version 1.0を用い, RdRp領域の遺伝子型を推定した。

結果および考察

2009年以降, 本県のNoV検出状況を調査したところ, GII.2は2014/15シーズンを除いて毎年検出されていた。VP1領域の系統樹解析の結果, 2016/17シーズンのGII.2は, GII.P2-GII.2が1例あり, その他のGII.P16-GII.2は, 2016/17シーズンのみ検出された株による独立したクラスターを形成した(図1)。また, これらの株は, 系統樹上, 同シーズンの11月に中国で検出された株あるいは東京都で検出された株と同じクラスターに分類された。東京都で検出された株は, 広島市3)の報告と同様にVP1領域P2サブドメインのアミノ酸の341番目がアルギニン(R)に変異しているが, 中国で検出された株は同部位のアミノ酸がリシン(K)であることが推定されている。ゆえに, 本県では, 上述した異なる遺伝学的性質を有するGII.P16-GII.2が調査期間中流行していた可能性がある。なお, これらの株の検出地域および時期に大きな偏りはみられなかった。また, VP1領域において, 系統樹上, 2016/17シーズンのGII.P16-GII.2と遺伝学的に近い株として, 県内で2010/11および2011/12シーズンに検出されたGII.P16-GII.2と前シーズン(2015/16シーズン)に県内一部地域で検出されたGII.P2-GII.2があげられる。また, 2015/16シーズンのGII.P2-GII.2とP2サブドメインのアミノ酸配列での相同性は97.3~99.3%だった。

次に, RdRp領域の系統樹解析では, 今シーズンに本県で検出された株は, 広島市3)などで検出された株と同様に, 2016年に検出されたGII.P16-GII.4_Sydney2012と同じクラスターを形成した(図2)。また, 今回検出したGII.P16-GII.2の中で, 系統樹上, 遺伝学的に最も近かったのは, VP1領域と同様に2010/11および2011/12シーズンのGII.P16-GII.2であった。

以上のことから, 2016/17シーズン初めに本県で検出されたGII.2は全国で多く検出されたGII.P16-GII.2と同様の株と多少遺伝学的に異なる2種類のNoVが検出されていたことが推察された。また, これらはともに, 検出地域・時期に偏りがなかったことから, 県内では同時期に流行していた可能性がある。なお, 2016/17シーズンの9~12月に小児科病原体定点から検出されたNoV(55株)について解析を行った結果, GII.2以外の株は18%(10株)であり, GII.2が大半(82%)を占めた。しかし, 1月以降の検体では, GII.4が優勢になり, 70%(14/20)と多くなり, GII.2の検出は20%と少なくなった。このことから, 2016/17シーズン初頭には, GII.2が主体となり本県での感染性胃腸炎に関与したことが推定された。

なお, 本県では, 第47週(11月25日)に当該疾患の警報発令による注意喚起および予防啓発の強化等を行った結果, 12月初めの2例を最後に集団感染事例は急速に減少した。今後も引き続き, 感染性胃腸炎の発生動向を注視するとともに県民に対する注意喚起を続けていきたい。

謝辞:本稿を作成するにあたり, 資料の提供をいただいた奈良県医療政策部保健予防課の方々に深謝いたします。

 

参考文献

奈良県保健研究センター
 稲田眞知 藤谷美沙子 尾西美咲 千葉翔子 中野 守 榮井 毅
国立感染症研究所感染症疫学センター
 長澤耕男(現千葉大学) 木村博一(現群馬パース大学)

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