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日本脳炎:2016年アジアおよび西太平洋地域におけるサーベイランスと予防接種の状況

(IASR Vol. 38 p.168-169: 2017年8月号)

日本脳炎ウイルスは, アジア太平洋地域で最も重要な予防接種可能な脳炎の原因であり, 世界で毎年約68,000例の日本脳炎患者が発生していると推計され, 大部分(75%)が15歳未満である。大半の感染者は無症状だが, 有症状者の致命率は30%弱であり, 生存者の3~5割に長期に及ぶ神経学的後遺症を認める。世界保健機関(WHO)は, 日本脳炎が公衆衛生上の問題となっている地域において, 国の予防接種プログラムに日本脳炎ワクチンを加えることを推奨している。以下 「アジアおよび西太平洋地域における日本脳炎サーベイランスと予防接種の状況」 の最新版である。

2016年, 日本脳炎ウイルス伝播のリスクがあるとされる24カ国のうち, 22カ国(92%)において日本脳炎サーベイランスが実施されている。24カ国中14カ国(58%)が全国で, 2カ国(8%)がハイリスク地域でサーベイランスを実施している。また, 11カ国(46%)が定点でサーベイランスを実施している。報告された日本脳炎症例数は, 2015年では合計4,087例であり, 2011年に比べ約60%減であった。このうち3,549症例(87%)が4カ国(中国, インド, ネパール, ベトナム)から報告されている。

この4年間に, 日本脳炎サーベイランスが新たに実施あるいは強化された国もある。一方, 国によってはサーベイランスの実施地域が限局され, データは自記式記入調査票で集められ, 症例のワクチン接種歴や日本脳炎ワクチン導入後の普及率が不明である。また, 検査診断の有効性は認識されているものの, 検査を実施した日本脳炎疑い症例の割合は不明であり, より正確なデータの収集, 実験室診断の能力向上が求められる。

予防接種は2012年には24カ国中11カ国(46%)で実施され, 2016年には12カ国(50%)で実施されており, 10カ国(42%) は全国的またはハイリスクな地域単位で実施され, 2カ国(8%)はリスクに関係なく地域単位で実施されていた。インドネシア(バリ州), ミャンマー(全国), フィリピン(地域単位) は, 2017年後半または2018年初頭に日本脳炎ワクチンの導入を計画している。多くの国が, マウス脳由来ワクチンから, 簡単な接種スケジュールのWHOが推奨するワクチンへ移行し, 2016年は3カ国(台湾, 韓国, ベトナム)のみがマウス脳由来ワクチンを使用している。

予防接種は日本脳炎の予防と制御に最も有効な方法であり, 日本脳炎による疾病負荷を減じるうえでも有用との報告がある。日本脳炎サーベイランスを強化し, 日本脳炎ワクチン接種のための国の取り組みを後押しし, ワクチン接種のための十分な資源の確保を保証することが今後重要である。

 

〔WHO, WER 92(23): 323-331, 2017〕
〔抄訳担当:感染研感染症疫学センター・加賀優子 (FETP), 神谷 元, 砂川富正〕

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