国立感染症研究所

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2014年のヘルパンギーナ患者からのウイルス検出状況―仙台市

(IASR Vol. 36 p. 29-30: 2015年2月号)

2014年、仙台市におけるヘルパンギーナの定点当たりの患者報告数は、第27週から増加し始め、第36週でピークに達した後、減少した(図1)。ピーク時の定点当たり患者報告数は5.69人で、2013年の3.73人に比べ1.96人の増加となり、過去5年間では2011年以来の流行となった。また、患者報告数は全国平均より7週遅れてピークを形成した。

一方、手足口病の定点当たりの患者報告数は、第27週から増加し始めたが、その後1.0を超えることはないまま推移し、ピーク時の患者報告数は0.77人(2013年は6.46人)で、手足口病の流行はほとんどみられなかった(図2)。

ウイルス分離・同定は、病原体定点で採取された咽頭ぬぐい液(以下、検体)を、RD-A細胞〔国立感染症研究所(感染研)から分与〕に接種し、37℃1週間培養し、2代目まで継代した。細胞培養にてCPEが認められた検体については、培養上清を精製後、感染研から分与された抗血清で中和試験を試みた。また、検体もしくはCPEが観察された培養上清から、市販のキットを用いてRNAを抽出し、CODEHOP PCR 法1)によりVP1領域の遺伝子を増幅した。増幅産物を精製後、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、エンテロウイルスの遺伝子配列による型別分類webサービス(http://www.rivm.nl/mpf/enterovirus/typingtool)により血清型の同定を行った。

2014年7~10月に感染症発生動向調査の病原体定点から、ヘルパンギーナ患者の検体は16検体搬入され、細胞培養によるウイルス分離を試みた15検体中11件で、RD-A細胞で2代目までにCPEが認められた。分離されたウイルスは中和試験により8検体がコクサッキーウイルスA群4型(以下、CVA4)、3検体がCVA5と同定された。そのうち、CVA5が分離された1検体からは、遺伝子検査においてエンテロウイルス、アデノウイルスの2種類の遺伝子が検出されたことから、A549細胞にも接種し、34℃1週間培養したところ、2代目でCPEが認められ、中和試験においてアデノウイルス1型と同定された。

また、同時期にヘルパンギーナ、手足口病とは別の診断名で病原体定点から搬出された検体(咽頭ぬぐい液)の中で、3検体からPCR検査によってエンテロウイルスの遺伝子が検出された。RD-A細胞に接種したところ、2件についてはCPEを認め、中和試験によりそれぞれCVA4と同定され、CPEを認めなかった1件は、検体から抽出したRNAの遺伝子解析において、ライノウイルスが検出された。

以上により、2014年に仙台市内でヘルパンギーナ患者から検出されたウイルスはCVA4が中心で、全国的な傾向と同じと考えられた2)。また、近県では報告がないCVA5が仙台市においては分離されていることが特徴的であった。

2012年および2014年に仙台市で分離された計13株のCVA4について、CVA4標準株およびその他過去に国内で検出された株とともにVP1領域(376bp)の系統樹解析を行った(図3)。解析にはClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)を用いた。その結果、2014年株の多くは2012年株とは異なる系統を示し、10株中8株が一つのクラスターを形成した。2014年分離株のクラスター外に位置した2株のうち、SendaiEV060_2014は2012年分離株と近いクラスターに属した。2014年の仙台市における分離株の相同性が必ずしも高くなかったことは、2012年、2014年の鳥取県内におけるCAV4分離株の相同性が同一年においては極めて高かったとする佐倉らの報告3)とは状況が異なっている。検体搬入と併せて提出された検査票によると、仙台市内で搬入されたヘルパンギーナ16件のうち、発生の状況は散発ととらえられているものが14件と大半を占め、分離されたCVA4のうちSendaiEV049_2014のみが保育園における集発事例の患者検体由来のものであった。

コクサッキーウイルスの流行は、毎年異なる型により起きている。今後もその動向に注意し、株分離、遺伝子情報の収集を行うことが必要である。


参考文献
  1. Allan W , et al . , J Clin Microbiol 44 : 2698-2704 , 2006
  2. IASR HP: 夏の疾患 ヘルパンギーナ患者から分離・検出されたウイルス
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/4892-iasrgnatus.html
  3. 佐倉千尋, 他, IASR35: 217-218, 1014


仙台市衛生研究所 菅原瑶子 牛水真紀子 関根雅夫 中田 歩 勝見正道 小林正裕
長谷川小児科医院 長谷川純男
かやば小児科医院 萱場 潤

 

 

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