国立感染症研究所

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大阪府におけるマクロライド耐性肺炎マイコプラズマの検出率の低下傾向

(IASR Vol. 37 p.183-184: 2016年9月号)

肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は小児から高齢者に至るまで幅広い年齢層で感染を引き起こし, 気管支炎や肺炎の原因となる。近年, 本菌による感染症の臨床上の問題として, 従来のような治療効果が認められず, 発熱などの症状が遷延し, 肺炎に至る症例が増加してきた。その原因として本菌のマクロライド系抗菌薬(MLs)に対する耐性化が指摘されている。MLs耐性の肺炎マイコプラズマは臨床からの分離が2000年以降に増加し, 2011~2012年のマイコプラズマ肺炎流行時には分離菌の80%以上がMLs耐性菌だったとの報告もあった1)。われわれは2013年10月~2015年12月まで大阪府内で肺炎マイコプラズマ感染の実態を調査し, 分離菌の解析を行ったところ, 2015年にはMLs耐性菌の検出率が低下傾向にあることが判明したのでその概要を報告する。

調査, 検査方法

1. 患者からの検体採取, 遺伝子診断, 分離培養検査
大阪府内の6カ所の一次医療機関および3カ所の二次医療機関を受診したマイコプラズマ感染疑い患者からユニバーサルバイラルトランスポート (日本BD) を用いて咽頭ぬぐい液を採取, 検査開始まで冷凍保存後, 遺伝子診断と分離培養を行った。遺伝子診断はリアルタイムPCR法で実施, 分離培養は二層培地とPPLO培地を用い, 培養8週まで観察した。少なくとも1種の検査で陽性の場合をマイコプラズマ陽性と判断した。

2. MLs耐性変異の分析
肺炎マイコプラズマのMLs耐性は, 23S rRNA遺伝子のドメインVの特定部位(2063番目, 2064番目および2617番目)に点変異が生じることにより起こることが知られている。この部位を含む遺伝子を増幅するPCRプライマーをデザインし, Myco23S-F(position 1998-2018)5´-TCTCGGCTATAGACTCGGTGA-3´(forward), Myco23S-R(position 2673-2692)5´-TAAGAGGTGTCCTCGCTTCG-3´(reverse), 増幅産物のダイレクトシークエンスにより変異の有無を確認した。変異の認められた菌を耐性菌と判定した。

3. 遺伝子型別
p1遺伝子のPCR-RFLP型別法で1型菌と2型菌およびこれらの亜型(variant)に型別した2)

結果および考察

大阪府では2013~2014年はマイコプラズマ肺炎の非流行期であったが, 2015年は8月頃より基幹定点当たりの報告数が増加し, 2012年と同様の流行が認められた()。全調査期間における総計394検体の培養ならびに遺伝子検査の結果を表1に示す。全検体中陽性は184検体(46.7%)であり, 非流行期の陽性率は低かったが, 流行期の2015年は上昇した。また, 培養検査による陽性検出率(97.3%)は遺伝子検査のそれ(95.7%)を若干上回った。

全分離株179株のMLs耐性検査ならびに遺伝子型別の結果を表2に示す。MLs耐性変異は81株(45.3%)に認められ, すべて23S rRNA遺伝子の2063番目の塩基のアデニンからグアニンへの変異であった。耐性率は2013年66.7%, 2014年73.3%から2015年には41.8%に大幅に減少した。遺伝子型別結果では, 全179株が1型84株(46.9%), 2型47株(26.3%), 2c型48株(26.8%)に型別された。MLs耐性率を型別にみると, 1型91.7%, 2型0%, 2c型8.3%であり, 1型は高頻度に耐性化しており, 一方, 2型では耐性はなく, 2c型の耐性率も低頻度であった。さらに, 1型が占める割合を経年的にみると, 2013年, 2014年は分離株数は少ないが, それぞれ66.7%, 73.3%であり, 2015年には43.7%に減少した。この値は上記の各年の分離菌におけるMLs耐性率とほぼ一致している。わが国では2001年以降, 1型の流行および同型のMLs耐性の増加がみられたが, 2015年は1型の減少, MLs感受性2型および2c型の増加がみられた。これまでのMLs耐性の増加傾向とは異なり, 耐性菌は減少しているが, これは型別の結果から, それ以前に流行していたMLs耐性1型菌からMLs感受性2型または2c型へ流行菌がシフトしたことによる結果であることが判明した。

2015年に分離された全株についてその検体の由来を一次医療機関と二次医療機関に分けると, 耐性率は一次医療機関では低く(12.8%), 二次医療機関では約4倍高かった(54.1%)。二次医療機関では, 一次医療機関で治療が奏功しなかった患者が二次医療機関に転院, 入院となるケースが多く, その原因にはMLs耐性菌が大きく関与していると考えられる。そのバイアスの結果として二次医療機関における耐性率が高くなっていることを考えると, 実際の流行菌の耐性率は一次医療機関の耐性率に近いものと推測される。肺炎マイコプラズマは数年から10年程度で流行型が変化することが観察されており2), その流行型の変化時には今後も今回のような耐性菌検出率の変動が起こる可能性がある。今後も継続的な流行型の調査, 耐性菌のサーベイランスが必要と考えられる。

 

引用文献
  1. 生方公子ら, IASR 32: 337-339, 2011
  2. Kenri T, et al., J Med Microbiol 57: 469-475, 2008

大阪府立公衆衛生研究所感染症部細菌課
 水谷香代子 石鍋美智子 勝川千尋
あさいこどもクリニック 浅井定三郎
中野こども病院 圀府寺 美 梶 勝史
愛染橋病院 塩見庄司
岸和田徳洲会病院 櫛引千恵子
畑小児科 中 篤子
松下こどもクリニック 松下 享
ぐんぐんキッズクリニック 中野 景司
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愛和こどもクリニック 荒井和子
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