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WHOのヨーロッパ地域(EUR)における麻疹排除に向けての進捗状況 2009~2018年

(IASR Vol. 40 p126:2019年7月号)

2010年世界保健機関(WHO)のヨーロッパ地域(EUR)に属する全53カ国で麻疹排除に向けて, 1)麻疹含有ワクチン(MCV)の95%以上接種達成と維持, 2)麻疹・風疹感受性者に対するワクチン接種機会(補足的ワクチン接種[SIAs]含む), 3)症例探索と疑い例発生時およびアウトブレイク発生時の検査診断によるサーベイランス強化, 4)EURにおける麻疹排除実現を可能にするための改善策およびワクチン接種に関連する利点とリスクの根拠の活用についての戦略を推奨してきた。本稿は2009~2018年におけるEURでの麻疹排除に向けての戦略と麻疹症例の疫学情報についてまとめたものである。

予防接種活動

2002年以降, 53カ国でMCVの2回接種が小児期の定期接種となっている。2009~2017年における推定ワクチン接種率は, MCV1(1回目の麻疹含有ワクチン接種)が93~95%, MCV2(2回目の麻疹含有ワクチン接種)が73%から90%に上昇した。2017年において, EURの53カ国のうち, 30カ国がMCV1の接種率95%以上を達成し, 15カ国がMCV1と2の両方の接種率95%以上を達成した。2009~2018年の間に13カ国の1,600万人以上の人がSIAsでワクチン接種した。

サーベイランス

EURの全加盟国は麻疹のサーベイランスデータを直接あるいは欧州疾病予防管理センター(ECDC)を経由してWHOに報告しており, 2018年時点で47カ国が症例単位ごとに報告し, 6カ国で集計されたデータ報告をしている。麻疹の疑い例は疫学情報が収集され, 検査診断例, 検査診断例および疫学的リンクのある症例, 臨床診断例, 取り下げ例に分類されている。WHOのヨーロッパ地域における麻疹・風疹検査室診断ネットワークでは報告された症例から分離された麻疹ウイルスの検査診断と遺伝子型の決定を行っている。麻疹サーベイランスの質の評価は1) 疑い例(麻疹・風疹)の取り下げ数(目標人口10万対?2が1カ国(2009年)から10カ国(2018年)), 2)報告から48時間以内に実施された症例の調査割合(目標?80%が1カ国(2009年)から24カ国(2018年)), 3)疑い例における発疹出現後28日以内の適切な検体採取, WHO認証施設または技術力の高い施設での検査割合(目標≥80%が13カ国(2009年)から38カ国(2018年)), 4)感染源が特定される割合(目標≥80%)としている。

麻疹の罹患率と遺伝子型

罹患率は2009年が人口100万人対8.8, 2010~2015年が平均30.1, 2016年が5.8まで低下した。しかし, 大規模なアウトブレイクの影響で2018年は89.5まで上昇した。2018年は47カ国から合計82,596例の報告があり, このうち73,925例は主に8カ国(ウクライナ:53,218例, セルビア:5,086例, フランス:2,913例, イスラエル: 2,919例, グルジア:2,203例, ギリシャ:2,193例, イタリア:2,517例, ロシア:2,256例)からの報告であった。死亡例は2009~2018年で179例, このうち2017~2018年が114例であった。遺伝子型はD4(全体:21%, 2009~2012年:66%), D8(全体:45%, 2013~2016年:76%), B3(全体:33%, 2017~2018年:58%)であった。

麻疹排除認定

2017年末時点で, 43カ国が12カ月以上流行株の伝播の持続がなく, このうち37カ国が36カ月以上流行株の伝播の持続がない。

考 察

2017~2018年におけるEURの麻疹の報告数は2009~2016年の3倍で, 8カ国が2,000例以上の症例を報告した。各国の高いワクチン接種率にも関わらず麻疹の再流行の要因は限られた人的資源, 脆弱なワクチン接種プログラム, 感受性者(ワクチン接種率が95%に到達していない地域の若年小児および自然感染やワクチン接種のない若年成人)の集積によるウイルスの感染源の持続の存在が挙げられる。アウトブレイクの対応は国により異なるが, 財源不足, 人的資源不足, 政治的要因, 集団接種に対する公衆衛生部局または住民の受け入れが容易でないこと, 感受性者のワクチン接種へのアクセスが悪いこと, ワクチン供給に関する課題等が各国ごとにそれぞれある。より良いアウトブレイク対応のために, 地域内の各国が金銭的, 人的資源を確保することで, ワクチン接種の十分な取り組みや質の高いサーベイランスの実施により麻疹と風疹の排除に取り組む必要がある。EUR地域事務局は地域において麻疹排除のために, 1)95%以上のMCVの2回接種達成と維持, 2)感受性の高い集団のワクチン接種への障害の理解およびワクチン接種への要望改善, 3)地域の状況に応じたワクチンギャップを無くすこと, 4)迅速な症例探知とアウトブレイク対応ができる質の高い麻疹サーベイランス, 5)感染予防と対策の強化(特にアウトブレイク時)を目標にしている。EURの70%の国では麻疹排除を達成しているが, 最近の麻疹再流行は麻疹排除の達成と維持が課題である。

 

(WHO, WER 94(18): 213-224, 2019)
(抄訳担当:藤倉裕之 八幡裕一郎 砂川富正)

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