国立感染症研究所

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無菌性髄膜炎患者から検出されたエコーウイルス9型、2002~2013年―福島県

(IASR Vol. 35 p. 249-250: 2014年10月号)

2011年7~11月にかけて福島県内で無菌性髄膜炎患者が38症例報告された。感染症発生動向調査事業により病原体検索が行われ、搬入されたほぼすべての症例(検体は髄液および咽頭ぬぐい液、糞便)からエコーウイルス9型(以下E9とする)が検出され、患者の居住地が隣り合う2市町に限局していたことから、E9による無菌性髄膜炎の地域流行であったことが示唆された。2012年にも散発事例でE9の検出はあったが、2013年9月に教育施設を中心とした無菌性髄膜炎の地域流行がみられ、患者検体から同様にE9が検出された。これら2つの無菌性髄膜炎地域流行を引き起こしたE9について関連性やウイルス性状等を解明するため、これまで本県で検出されたE9との比較や分子疫学的な解析を行ったので報告する。

感染症発生動向調査により2002~2013年に搬入された検体(髄液、咽頭ぬぐい液、糞便等)について培養細胞(RD-18S、HEp-2、Vero、LLC-MK2)を用いたウイルス分離を試み、国立感染症研究所から分与された抗血清(EP95)を用いた中和試験により同定し、81検体のE9陽性検体を得た。その後、構造蛋白質VP4-VP2領域およびVP1領域に対するRT-PCR1-3)を行い、陽性となった検体についてはダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、NJ法による系統樹解析を行った。なお、2012年については臨床検体9検体よりVP4-VP2領域に対するnested RT-PCRを行い、塩基配列解析を行った()。

臨床症状と患者年齢層:2002~2013年に当所でE9が検出された症例について症状を解析した結果、地域流行が観察された2011年、2013年は50症例中45症例(90%)が髄膜炎症状を伴っていたが、それ以外の年で髄膜炎を併発した症例は31症例中3症例(9.7%)であった。また、髄膜炎症状を呈した症例の年齢を比較すると、2011年、2013年は2~5歳までの幼児が12症例、6歳以上の小児が32症例、成人が1症例と幅広い年齢層で発症がみられた。

分子疫学的解析:当所がこれまでに検出した83株のE9について構造遺伝子(VP4-VP2、VP1)の塩基配列を解析した結果、2011、2013年に検出された55株はほぼ同じ塩基配列を示し、それ以外の年の28株とは明らかに異なるクラスターを形成した(図1図2)。このことから、2011年および2013年に発生した地域流行は他の年に福島県内で検出されたE9とは異なるタイプによるものであり、幅広い年齢層の髄膜炎患者より検出されている。エンテロウイルスは比較的頻繁に遺伝子組換えが発生することが知られており4)、病原性や感染力について常に監視する必要がある。そのため、無菌性髄膜炎等の集団感染や地域流行が疑われる事例においては、より詳細な性状解析を実施していきたい。

 
参考文献
  1. 石古博昭,他,ウイルス27: 283-293,1999
  2. Oberste MS, et al., JCM 38: 1170-1174,2000
  3. Nix WA,et al., JCM 44: 2698-2704,2006
  4. Huang YP,et al., Virol J 7: 277,2010
 
福島県衛生研究所 
  北川和寛 千葉一樹 鈴木理恵 五十嵐郁美 柏木佳子 金成篤子 
  吉田 学 笹原賢司
福島県県北保健福祉事務所 門馬直太
国立感染症研究所ウイルス第二部 吉田 弘
 

 

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