国立感染症研究所

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆ 西アフリカ諸国におけるエボラ出血熱の流行2014年

 エボラ出血熱は、近年ではエボラウイルス病(Ebola virus disease:EVD)と呼称されることが国際的に多い。EVDの最も一般的な症状は、突然の発熱、強い脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに始まり、その後、嘔吐、下痢、発疹、肝機能および腎機能の異常、さらに症状が増悪すると出血傾向となる。検査所見としては白血球数や血小板数の減少、および肝酵素値の上昇が認められる。潜伏期間は2日から最長3週間といわれており、汚染注射器を通した感染では短く、接触感染では長くなる。集団発生では致命率は90%にも達することがある。また、EVDの元々の宿主はコウモリの一種ではないかと考えられている。感染した人または動物の血液などの体液と直接接触した場合に感染の危険が生じる。

 

 2014年に西アフリカ諸国で起こっているEVDの流行は3月にギニアで集団発生が報告され、その後、隣国のリベリア、シエラレオネへと拡大している。世界保健機関(WHO)の報告によると、2014年8月4日現在、ギニアで臨床的にEVD患者とされた累計症例数は495例(うち死亡363例)、リベリアでは516例(同282例)、シエラレオネでは691例(同286例)であった。リベリア及びシエラレオネでの流行は依然として深刻な状況にあり、一方、ギニアでは一時減少傾向にあったが、最近新規症例が急増している。7月には、リベリア人の40歳男性が空路でナイジェリアへの渡航中に発症、ナイジェリアの病院でEVDと診断され、数日後に死亡した。ナイジェリアでEVD感染者が確認されたのは初めてであった。この患者は航空機での移動中の発症であったため、搭乗者を含む接触者の調査が行われている。その後、ナイジェリアでは疑いのある症例まで含め、8月4日現在で計9例が報告されている。感染者は4カ国で1,700人、死者は900人を上まわっている。現時点で、EVD発生を理由として、WHOはギニア、リベリア、シエラレオネへの渡航や貿易の制限を推奨していない。今後発生国からの渡航者や帰国者による他国への感染拡大等が起こらないよう、流行状況を慎重かつ継続して監視していくことが重要である。

 WHOは7月24日の協議において、参加国と関係機関がEVDの流行に対して更なる人的・財政的協力を行っていくことを確認した。こうした中、リベリアでは7月に、NGO(非政府組織)の活動としてEVD患者の治療に当たっていた米国人の医師など2人がEVDに感染した。現在、日本の専門家がWHOのエボラ対策ミッションに参加しており、民間からもこれらの国で活動している方がいる可能性がある。EVD感染者の継続した増加や感染拡大による現地での医療関連感染が懸念されることから、現地でエボラ対策に従事する場合は感染防止策の徹底が求められる。

 EVDは基本的に稀な疾患であるが、現時点でワクチンはない。現地では他人の体液(排泄物を含む)や、感染者の体液に接触した可能性のある物品にできるだけ触れないようにし、手洗いを含む注意深い衛生手技を実践することが重要である。


○厚生労働省「エボラ出血熱に関する対応について(情報提供)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20140807_01.pdf
○国立感染症研究所「IDWR 2014年第19号注目すべき感染症:海外の注目すべき感染症」
http://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/alphabet/mers/2187-idsc/idwr-topic/4680-idwrc-1419.html
○WHO「Ebola virus disease(EVD)」
http://who.int/csr/disease/ebola/en/
○CDC「Ebola Hemorrhagic Fever」
http://www.cdc.gov/vhf/ebola/index.html
○厚生労働省検疫所「エボラウイルス疾患について(ファクトシート)」
http://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2014/05091411.html
○厚生労働省「WHOミッションへの日本人専門家の参加」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000052984.html
○外務省海外安全ホームページ「ギニア、リベリア、シエラレオネ及びナイジェリア他におけるエボラ出血熱の発生状況(その4)(2014年08月07日)」
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo.asp?infocode=2014C277



国立感染症研究所 感染症疫学センター
  河端邦夫 山岸拓也 有馬雄三 高橋琢理 石金正裕 松井珠乃 砂川富正 大石和徳

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version