IASR-logo

カナマイシン含有培地使用では検出不可能なウェルシュ菌による集団下痢症事例―東京都

(IASR Vol. 38 p.130-131: 2017年6月号)

日本におけるウェルシュ菌の食中毒検査においては, 卵黄加カナマイシン(KM: 200mg/L)含有CW寒天(KM-CW寒天)が汎用されている。KMに対するMIC値が200mg/L未満であるため, 本培地に発育し難いウェルシュ菌による食中毒事例が, 東京都では2006年1), 2010年に1事例ずつ, 2014年には京都市での発生が確認された2)。2014年以降, 東京都でKM-CW寒天使用では検出できないウェルシュ菌による集団下痢症が6事例認められており, 本菌による集団下痢症事例と分離菌株の性状について報告する。

 東京都においては, ウェルシュ菌が原因として疑われる食中毒事例の検査では, 他の食中毒起因菌分離培地を使用するとともに, ふん便中に産生されたCPE(Clostridium perfringensエンテロトキシン)の検査や増菌培養液のcpe遺伝子検査等を先行あるいは併用して実施している。

ウェルシュ菌の分離培地には従来法であるKM-CW寒天とCW寒天(卵黄加, KM不含有)に加えて, 当センターが開発したCS-GS-CW寒天(CW寒天にサイクロセリン200mg/L, ピルビン酸ナトリウム, 硫酸第一鉄, ピロ亜硫酸ナトリウム各500mg/Lを添加した培地)を使用した。ふん便検体の直接培養とTGC培地による増菌培養を併用した。増菌培養はTGC培地に接種後, 80℃, 10分加熱処理後42℃, 6~12時間または37℃, 18~22時間培養後分離平板に塗抹した。分離平板上に発育したウェルシュ菌について, 変法DS培地を用いてRPLA法にてCPE産生性試験を行い, CPE陽性の菌株を食中毒起因菌とした。KM-CW寒天には発育せず, CW寒天, CS-GS-CW寒天に発育した分離菌株について, 血清型別試験(都健安研血清を含む), 生化学性状試験, さらに, Etest®(bioMérieux)によるKMに対するMIC測定を行った。

2014年1月~2017年3月にウェルシュ菌を原因とする集団下痢症事例は, 2014年に2事例, 2015年に5事例, 2016年に3事例, 2017年1月~3月に1事例の計11事例認められた。このうち, 2014~2016年では毎年2事例ずつ計6事例がKM-CW寒天使用では検出不可であるウェルシュ菌による事例であった()。

上記2014~2016年6事例に加え, 2006年の1事例, 2010年の1事例の計8事例における原因菌の特徴を表に示す。1事例では, KM含有培地により検出不可菌株が2血清型混在し (事例1), 5事例ではKM含有培地により検出不可菌株(1血清型)のみ(事例4, 5, 6, 7, 8), 2事例ではKM含有培地により検出不可菌株(1血清型)およびKM-CW寒天で発育可能なCPE産生菌株が混在(事例2, 3)であった。これらの事例から分離されたKM-CW寒天には発育せず, CW寒天およびCS-GS-CW寒天に発育した9株は, ウェルシュ菌の典型的な生化学性状を示し, 血清型はすべて異なっていた()。これら9株のKMに対するMICは24~128mg/Lであり, KM 200mg/L含有のKM-CW寒天では発育が認められなかった。

近年, 東京都において, KM-CW寒天に発育しないウェルシュ菌による集団下痢症事例が多く確認され, 他府県でも本菌による事例が報告されていることから, ウェルシュ菌による食中毒を疑う際の検査では注意が必要と考えられた。疫学的にウェルシュ菌食中毒と推定されるが, 原因菌が検出されない場合, 以下の検査法を試みることが有効と考えられた。

1.ふん便中に産生されたCPE検出検査や増菌培養液のcpe遺伝子検査等を行い, ウェルシュ菌食中毒か否かのスクリーニングを行う。
 2.KM不含の卵黄加CW寒天を使用する。
 3.KM以外の抗菌薬入り培地(TSC寒天, CS-GS-CW寒天*等)を使用する。
  *サイクロセリン200mg/L, ピルビン酸ナトリウム, 硫酸第一鉄, ピロ亜硫酸ナトリウム 各500mg/L添加卵黄加CW寒天培地

 

参考文献
  1. 門間千枝ら, 日食微誌 25: 76-82, 2008
  2. 京都市衛生環境研究所微生物部門, 京都市衛生環境研究所年報 81: 89-92, 2015

 

東京都健康安全研究センター微生物部
 門間千枝 原田幸子 赤瀬 悟 尾畑浩魅 森 功次 小西典子
 小林惠子 平井昭彦 甲斐明美* 貞升健志
  *公益社団法人日本食品衛生協会

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan