2017年5月1日
国立感染症研究所
今回、2016年12月からのブラジル連邦共和国(以下、ブラジル)での黄熱流行、ならびにその後の流行の推移をうけ、リスクアセスメントを更新した。今後も、状況の変化に応じて、随時更新する予定である。
黄熱は、黄熱ウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)による感染症であり、感染症法上は、4類感染症に分類される。宿主はヒトとヒト以外の霊長類(サル)である。媒介動物でありまた保有宿主でもある蚊に刺されることにより感染する。ヒトへの感染は、主にAedes属の蚊の刺咬による。蚊の生息域に従い、アフリカでは北緯15度から南緯15度の熱帯地方、南アメリカでは北はパナマから南緯15度の熱帯地方で、流行が見られる1)。同地域において、9億人が感染リスクにさらされていると推測されている。黄熱の正確な患者数は明らかでないが、世界保健機関(WHO)の試算では、年間84,000~170,000人の患者が発生し、死者は最大で60,000人に及ぶとされている2)。2013年にアフリカで13万人の患者が発生し、78,000人が死亡したとする試算もある3)。
黄熱ウイルスは、①熱帯雨林(森林)型サイクル、②都市型サイクル、③中間(サバンナ)型サイクルの3つの生活環で自然界において維持されている4)。熱帯雨林(森林)型サイクルは、森林内での、主にヒト以外の霊長類と蚊の間での伝播であり、アフリカではAedes africanus、南アメリカではHaemagogus属およびSabethes属の蚊が媒介する。都市型サイクルは、ヒトと蚊の間での伝播で、いずれの地域でもネッタイシマカ(Aedes aegypti)が媒介する。中間(サバンナ)型サイクルはアフリカのジャングルの周辺境界部でみられ、ヒト-蚊-ヒト以外の霊長類の間での感染環で維持されている。いずれも蚊を媒介して感染が成立する。基本的に、ヒトの体液等の直接的接触によっても、ヒトからヒトへの感染は起こらないとされている5)。
黄熱ウイルスに感染したとしても、多くは不顕性感染である。一部の感染者が3-6日の潜伏期間ののち発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、背部痛、悪心嘔吐等の症状を呈する。発症した患者の15%が重症化し、数時間から一日程度の寛解期を経て、発熱が再燃し、黄疸や出血傾向などを来たし、ショックや多臓器不全に至る場合がある。重症化した場合の致命率は20~50%と高い。特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。
予防には黄熱ワクチンの接種が有効である。日本国内で使用されている17D-204株由来黄熱ワクチンは、接種後10日および14日には、それぞれ90%とほぼ100%の接種者で中和抗体が産生される6)。黄熱ワクチンの安全性は高いとされているが、生後9ヶ月未満の小児、重症筋無力症や胸腺腫などの胸腺に関連した疾患を有したことがある者、明らかな発熱を呈している者、重篤な急性疾患にかかっている者、卵・鶏肉・ゼラチン・ゴム製品に対して重篤なアレルギーのある者や重度の免疫不全を有する者等には、接種禁忌である。妊娠又は妊娠している可能性のある女性への接種は、予防接種の有益性と危険性を鑑み、判断する必要がある。また、60歳以上の人では接種後の副反応のリスクが増すため、注意が必要である。黄熱ワクチンについては、2016年7月に国際保健規則(International Health Regulations)の改定がなされ、ワクチン接種による有効期間が10年から一生涯に変更された7)8)。
このように黄熱は、重篤化する可能性がある一方で、予防接種により予防可能な疾患であることから、黄熱ウイルスに感染するリスクのある国・地域(黄熱リスク国・地域)の中には、入国に際し、黄熱予防接種証明書(イエローカード)の提示を義務づけている国がある(http://www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html#world_list)。こうした国に入国する際は、入国10日前までに黄熱の予防接種を受けていることが必要である。提示が義務づけられていないが、黄熱流行のリスクがある国に入国する場合にも、事前に予防接種を受けておくことが推奨されている。なお、日本国内では黄熱ワクチンの接種は、検疫所及びその他の特定の機関においてのみ可能である。
●南アメリカ
●アフリカ