国立感染症研究所

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆感染性胃腸炎

 

 感染性胃腸炎は、多種多様な病原体による嘔吐、下痢を主症状とする感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-18.html)。ウイルスが占める割合が多いが、細菌、寄生虫も本疾患の起因病原体である。細菌性のものでは腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど、寄生虫ではクリプトスポリジウム、アメーバ、ランブル鞭毛虫などがあげられる。ウイルス性のものではノロウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなどがみられるが、その中でも、ノロウイルスによる感染性胃腸炎は特に冬季に流行することで知られている(ノロウイルス感染症 2015/16シーズン:https://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrtpc/7015-443t.html)、(ノロウイルスの流行 2010/11〜2013/14シーズン:https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/777-diseasebased/na/norovirus/idsc/iasr-topic/4822-tpc413-j.html)。

 ノロウイルスはプラス一本鎖RNAウイルスで、GI〜GXの遺伝子群(genogroup)に分類されGIとGIIが主にヒトに感染する。ノロウイルスの感染経路としては、患者の糞便や嘔吐物からヒトの手指を介する経路、家庭や施設などヒト同士が接触する機会が多いところでのヒトからヒトへ感染する経路、感染した食品取扱者(無症状病原体保有者を含む)を介して汚染された食品を食する場合の経路、汚染された食品や水を摂取する場合の経路などもあり、その感染力は非常に強い。またアルコールへの抵抗性が強く、感染予防のためには手洗いの徹底、糞便・嘔吐物の適切な処理等が重要である。感染から発症までの潜伏期間は概ね24〜48時間で、主な症状は吐き気・嘔吐、下痢、腹痛、発熱である。ノロウイルスは糞便および嘔吐物に大量に排出される。症状消失後も数週間、糞便中への排出が続き、1カ月以上排出が続く事例も報告されている(https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/369/dj3694.html)。乳幼児や高齢者等では、嘔吐、下痢によって脱水症状になることや、体力を消耗することがある。特に高齢者では、嘔吐物による誤嚥性肺炎を起こすこともあるので注意が必要である。現在有効なワクチンはなく、治療法は対症療法となる。

 感染症発生動向調査では、感染性胃腸炎は定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週ごとに保健所に届け出なければならない。感染性胃腸炎の週ごとの定点当たり報告数は、新型コロナウイルス感染症パンデミックが始まった2020年では、第9週以降、毎週、2010〜2019年の同週の定点当たり報告数を下回ったが、2021年の第45週以降は、同じくパンデミック中であるものの、2020年の同週の定点当たり報告数を大きく上回り、第49〜51週は、2019年の同週の定点当たり報告数を上回った。なお、2022年第1、3、4週も、2019年の同週の定点当たり報告数を上回り、第2週以降は毎週、過去5年間の同時期の平均値(前週、当該週、後週の定点当たり報告数の5年間分、合計15週間分の平均値)を上回っている。地理的な流行の推移をみると、第1週より報告の多くが九州地方からなされているが、全国からも多くの報告がなされている。定点当たり報告数の上位5位を都道府県別にみると、第1週は大分県、宮崎県、熊本県、佐賀県、兵庫県、第2週は山形県、熊本県、宮崎県、佐賀県、大分県、第3週は大分県、山形県、宮崎県、佐賀県、宮城県、第4週は大分県、山形県、香川県、福井県、宮崎県、第5週は大分県、福井県、山形県、香川県、三重県であった。直近の第5週(2022年1月31日〜2月6日)の定点当たり報告数は5.74となり(感染性胃腸炎の年別・週別発生状況:https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1647-04gastro.html)、前週(7.10)よりは減少したものの、過去5年間の同時期の平均値(前週、当該週、後週の定点当たり報告数の5年間分、合計15週間分の平均値)を上回っており、引き続き発生動向を見守る必要がある。

 2022年第1〜5週に報告された101,359例における年齢群別割合では1歳が17.3%、2歳が16.5%、3歳が13.1%、4歳が9.8%、5歳が7.6%の順となっている。男女別割合では小児(15歳未満:累積報告数92,997例)の年齢群において男性が54.1%とやや多かった。

 ヒトに由来する感染性胃腸炎ウイルスとして検出された病原体の中では、2020年以降も例年通り、ノロウイルスGIIが多くを占めた〔ノロウイルス等検出状況 2020/21シーズン(2021年5月13日現在報告数):https://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/2082-idsc/iasr-noro/5701-iasr-noro-150529.html〕。また、2021年2月に、同一の調理従事者が勤務した複数の飲食店で発生した食中毒事例においても、ノロウイルスGIIが検出された(https://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrd/10604-498d01.html)。

 新型コロナウイルス感染症パンデミック下の2022年2月9日現在では、感染性胃腸炎の定点当たり報告数は例年並みであり、ノロウイルスがその多くを占めている。ノロウイルスによる食中毒及び感染症の発生を防止するためには、ノロウイルスに関する正しい知識と予防対策等についての理解が欠かせない。厚生労働省は、「ノロウイルスに関するQ&A」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html)、「ノロウイルス等の食中毒予防のための適切な手洗い(動画)」(https://www.youtube.com/watch?v=z7ifN95YVdM&feature=youtu.be)を作成し、手洗いや糞便・嘔吐物の適切な処理等の感染予防対策の徹底を呼びかけている。また、「ノロウイルスの感染症・食中毒予防対策について」などの通知を定期的に発出し(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/dl/201210-01.pdf)(2020年12月10日)、注意を喚起している。

 厚生労働省は、食中毒の患者並びに食中毒死者の発生状況を的確に把握し、また複雑な発生状況を解明することを目的として食中毒統計調査を実施し、集計結果を公表している(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/112-1.html)。調理従事者を介した食品汚染による食中毒を防ぐためには、食品取り扱い施設での手洗いや、作業衣・手袋の着用などを含めた基本的な衛生管理、および調理従事者の健康管理の徹底が望まれる。なお、食中毒の原因を早期に究明し拡大を防止するために、厚生労働省は2016年11月24日に「ノロウイルスによる食中毒の予防及び調査について」(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000143826.pdf)の通知を発出している。

 今後の感染性胃腸炎の感染症発生動向調査及びウイルスの推移に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:

 

●ノロウイルス感染症とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/452-norovirus-intro.html
●IASR ノロウイルス感染症 2015/16シーズン
https://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrtpc/7015-443t.html
●ノロウイルス等検出状況 2020/21シーズン
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-noro.html
●食中毒の原因(細菌以外)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/03.html
●感染性胃腸炎(特にノロウイルス)について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/norovirus/
●食中毒統計調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/112-1.html

 

   国立感染症研究所 感染症疫学センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version