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茨城県内の地域医療を担う病院におけるBacillus cereus院内感染事例

(速報掲載日 2019/7/25) (IASR Vol. 40 p121-123:2019年7月号)

2018年茨城県内の地域医療を担う病院(約400床規模)からBacillus cereusによる院内感染が保健所に報告された。B. cereusを含むBacillus属菌は環境に広く存在しており, 臨床検体からの検出は稀でなく, 国内医療機関における100病床あたりのBacillus属菌血液培養検出は中央値で年間0.85株と報告されている1)。当該病院の血液培養B. cereus検出症例は2012年から2016年まで年間2~10例であり, 2017年20例, 2018年は11月20日時点で25例と増加していた()。

症例定義を「2018年4月12日から11月27日まで, 入院中に採取された無菌検体からB. cereusが検出された入院患者」としたところ24例が該当した。症例は年齢中央値71歳, 男性が19例(79%)であり, B. cereus培養初回陽性検体提出(菌検出)時の入院病棟は7病棟(6診療科)に及んでいた。末梢静脈カテーテルが23例(96%), アミノ酸製剤が11例(46%)で使用されていた。院内では, 患者と外部リース業者が直接リース契約を結びタオルや寝衣を患者に貸与するサービスがあり, その黄色タオルが21例(95%, 使用歴不明2例を除く22例中), 寝衣が22例(100%, 同)で使用されていた。また, 感染症発症例を「臨床的に判断されたB. cereus感染症発症例」または「同日採取血液培養2セット以上でB. cereusが検出された症例」と定義すると, 24例中13例が該当した。院内の観察では, 血液培養採取時に低濃度の0.05%クロルヘキシジンによる皮膚消毒が1回行われていた。病棟でマッチングした症例対照研究(症例18例, 対照34例, 観察期間は菌検出前1週間, 条件付きロジスティック回帰分析で解析, 有意水準<0.05)では, アミノ酸製剤(オッズ比11.1, 95%信頼区間:1.4-512.5)とリースタオル等(オッズ比8.2, 95%信頼区間:1.2-∞)の使用が血液検体からのB. cereus検出と有意に関連しており(), 感染症発症例に限定した解析では(症例12例, 対照23例)アミノ酸製剤(オッズ比14.2, 95%信頼区間:2.0-∞)の使用がB. cereus菌血症・敗血症と有意な関連を示していた。環境培養では, リースタオル等からB. cereusが多量に検出された。リースの黄色タオル等は外部リース業者が委託したクリーニング所が回収していたが, その回収頻度も関係し, 使用後に院内で湿ったまま2~3日放置されていた。また, 洗濯を受託したクリーニング所は, 色物物品であるリースの黄色タオル等に対しては, 熱湯消毒基準である80℃より低い温度(60℃)で消毒しており, 消毒剤は次亜塩素酸ではなく過酸化水素が使用されていた。なお, 症例や環境からの分離株はパルスフィールドゲル電気泳動で複数のバンドパターンを示していた。

本事例は, 湿潤したタオル等の長時間放置やクリーニング時のB. cereusに対する効果が不明な消毒方法によりリースの黄色タオル等がB. cereusに高頻度, 高レベルに汚染されたことが背景にあると考えられた。そして病院内のB. cereusによる環境汚染が, B. cereusの血液培養陽性例の増加に関与したことが示唆された。医療機関における湿った状態のタオル等の放置に関連したB. cereusアウトブレイク事例は過去にも報告されており2-4), タオル等を湿った状態で放置しないような対応, およびタオル等のクリーニングを外部業者に委託する場合には適切に消毒が行われていることを確認することが重要である。また, 血液培養採取時の混入予防の為, 皮膚穿刺前の1%クロルヘキシジンによる消毒の徹底が重要である5)。さらに, B. cereusによる環境汚染が低レベルになるまで, 末梢静脈路確保時や血液培養採取時には通常より高いレベルの皮膚処置を行うことが重要である。本事例で確認された菌血症・敗血症とアミノ酸製剤との関連は, 国内で他にも報告されていることから6,7), アミノ酸製剤の使用は適応基準を設け, 必要と判断された場合のみ使用し, 穿刺から始まる一連の点滴管理を厳密に清潔に行っていくことが望ましいと考えられた。医療機関におけるB. cereus検出は夏に増えることが報告されているため8), 当該医療機関では, 少なくとも夏を過ぎるまでは対策を取りつつ, 症例発生状況を注意深く観察していく必要がある。また, 各医療機関においては, タオル等のクリーニングが適切に行われているかを再確認することが望ましい。

 

参考文献
  1. 小林彩香ら, 第91回日本感染症学会総会・学術講演会, 2017
  2. 糸賀正道ら, 日本感染症学会誌 90: 480-485, 2016
  3. 朝野和典ら, 自治医科大学附属病院におけるBacillus cereus group血流感染アウトブレイクに関する国立大学附属病院感染対策協議会による改善支援調査報告書, 2007
  4. 井沢義雄ら, 臨床微生物学会誌 15(2): 82-89, 2005
  5. Nuntnarumit P, et al., Infect Control Hosp Epidemiol 34(4): 430-432, 2013
  6. Kutsuna S, et al., Am J Infect Control 45(11): 1281-1283, 2017
  7. Sakihama T, et al. Jpn J Infect Dis 69(6): 531-533, 2016
  8. Dohmae S, et al., J Hosp Infect 69(4): 361-367, 2005

  

国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)
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