国立感染症研究所

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大阪府南部の中小病院におけるバンコマイシン耐性腸球菌の患者集積事例

(IASR Vol. 40 p87-88:2019年5月号)

大阪府南部の一般病棟と療養型病棟を有する中小病院において, 2017~2018年にかけてバンコマイシン耐性腸球菌(Enterococcus faecium, 以下VRE)の患者集積事例が発生し, 同院と関係機関が対策を行った。その対応の中で大病院と異なる中小病院における薬剤耐性菌対策の課題がみえてきたため, その過程とともに紹介する。

2017年6月, 大阪府南部のケアミックス病院(一般病棟・地域包括ケア病棟・療養病棟, 感染防止対策加算2)から入院患者でのVRE感染症発生が保健所に報告された。同院と感染防止対策加算1病院, 保健所の対策にもかかわらず症例発生が続き, 2018年2月, 国立感染症研究所感染症疫学センターと同実地疫学専門家養成コースが調査支援に入った。症例を同院で2018年1月1~16日までにVREが新規に検出された入院患者と定義したところ25例が該当した()。検出検体はスクリーニング検査による便が24例と大半を占め, 1例が尿であった。検出病棟は一般病棟が19例(76%)と多く, 他病棟での検出1例を除き全例が一般病棟を経ていた。検出は内科, 整形外科, 外科, 脳神経外科の4診療科からであり, 特に内科での検出症例が多かったが新規入院患者あたりの検出頻度は診療科で偏りを認めなかった。移動や排泄の要介助者が22例(88%)であった。一般病棟の入院患者では下部消化器内視鏡が頻回に行われており, その前処置等のおむつ交換処置時に医療従事者の手や体, 環境の汚染が起こりうる状況が観察され, 標準予防策が不十分であったことが推測された。パルスフィールドゲル電気泳動法が実施された23株すべてで関連が認められ, またPCR法によりvanA遺伝子が確認された。

地域の感染管理対策加算1病院や保健所に加え, 大学病院からの支援を受けながら, 病院感染対策チームにより標準予防策や接触予防策の強化が図られた。一般病棟と療養病棟で別々に症例をコホートする接触予防策がとられ, 日中のみ症例と他の患者とを分けてケアを行う看護チームがとられた。スクリーニング検査は外部検査会社で便検体を用いて行われ, 1~4週間ごとの患者発生病棟一斉, 高リスク患者(事例発生以降の同院入院歴, 施設入所歴, 抗菌薬使用歴)での入院検査が行われたが, 退院時一律の検査は病棟運営上実施ができなかった。病院ホームページで情報公開が2回, 外部委員を加えたVRE対策会議が2019年1月までに計4回開催された。1例目の確認から17カ月後の2018年10月の新規症例の発生以降, 新たな症例発生は確認されなくなり, 2019年1月中旬までに最終的に137例のVRE症例が確認された()。

中小病院であっても救急医療を含む一般病棟を持つ場合, その病棟では急性期病院に準じた感染管理が必要となると考えられる。しかしながら, 中小病院では, 標準・接触予防策の徹底とその教育, 物品整備やその清潔な使用の徹底等は, 限られた資源では円滑な実施が難しいことが多い。また, 外部機関で実施した細菌検査結果の迅速な活用, 適切な対象に対する適切なタイミングでのVREスクリーニング検査, VRE症例の適切なコホートや個室隔離と職員の専従化にも課題がある。特に, VREアウトブレイクでは数カ月後に関連症例の発生が確認されることがあるためスクリーニング検査は必須である。また, 継続した実施が困難な場合には一定レベルの標準予防策と接触予防策の支援と地域における迅速な情報共有体制の構築が求められる。さらには, 地域の感染管理専門家や保健所, 地方衛生研究所と協議し, 対策を推し進めることが重要と考えられる。

 

国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース
 加賀優子 錦 信吾 柿本健作
国立感染症研究所感染症疫学センター 
 山岸拓也 松井珠乃 大石和徳
大阪健康安全基盤研究所 
 原田哲也 河原隆二
近畿大学医学部附属病院 
 吉田耕一郎

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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