国立感染症研究所

国立感染症研究所 感染症疫学センター
2018年1月5日現在
(掲載日:2018年5月17日)

侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は、2013年4月より感染症法に基づく五類全数届出の対象疾患となった。感染症法上の届上の定義は、Streptococcus pneumoniaeによる侵襲性感染症として、本菌が髄液又は血液などの無菌部位から検出された感染症とされている(届出基準、届出票についてはhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-02.html参照)。2016年11月より届出基準における診断に用いる検体の種類が追加され、血液・髄液からの検出に加え、その他の無菌部位からの検出も含まれるようになった。

国の感染症発生動向調査では、2013年14週から2017年52週に11104例のIPD症例が報告された(2018年1月5日現在のデータを利用)。報告数は経年的に増加傾向を示し、季節性があり、春と冬にピークがみられ、夏に報告数が少ない傾向がみられた(図1)。IPD症例の届出時点での死亡の頻度(ここでは致命率とする)は、2013年から2017年まで6.1~6.8%とほぼ一定であった(表1)。

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また、2013年第14週から2016年第52週に報告されたIPD症例を年齢群別病型別に分類した(2017年11月22日現在のデータを利用)。各病型は、以下のように定義した。ここで、菌の検出とは、病原体もしくは病原体遺伝子が検出された場合とする。

・髄膜炎:髄液から菌が検出された場合、または、血液から菌が検出され、かつ症状欄に「髄膜炎」と記載があるもの

・菌血症を伴う肺炎:血液から菌が検出され、かつ症状欄に「肺炎」と記載があるもので、髄液からの菌検出がなく、症状欄に「髄膜炎」の記載がないもの

・菌血症:血液から菌が検出されたもので、髄液からの菌検出がなく、かつ症状欄に「髄膜炎」「肺炎」「中耳炎」「その他の症状」の記載がないもの

 

図2に人口10万当たりの年齢群病型分類別の年間報告数を示した。2016年の人口10万当たり報告数は1歳未満が最も多く(8.28/10万人口)、次いで1歳以上5歳未満(6.37/10万人口)、65歳以上(4.56/10万人口)と続いた。1歳以上5歳未満の年齢群を除く全年齢群で経年的に報告数が多くなる傾向にあった。

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報告された全年齢のIPD症例の病型の内訳は、髄膜炎1103例(14%)、菌血症を伴う肺炎3247例(41%)、菌血症2635例(33%)、その他980例(12%)であった。

年齢群別病型分類では、5歳未満の小児では菌血症が54%(798例/1480例)を占め、最多であるのに対し、65歳以上の高齢者では菌血症を伴う肺炎が51%(2233例/4356例)と最も多かった。

髄液・血液以外の無菌検体からの菌検出により届出に至った症例は13例(全IPDの0.2%、病型「その他」の13%)おり、検出検体として、関節液(6例)、非開放膿、胸水(各2例)、心嚢液、頭蓋内膿瘍、感染性心内膜炎の疣贅(各1例)が記載されていた。

2013~2017年にNESIDに報告されたIPD症例報告数は経年的に増加傾向であり、医師の届出率が上昇していることが予想されるとともに、届出対象疾患となった当初の報告数は過小評価であった可能性が示唆された。また、2016年11月より届出基準における診断に用いる検体の種類が追加され、血液・髄液からの検出に加え、その他の無菌部位からの検出も含まれるようになったが、血液・髄液以外の無菌検体からの菌検出により届出に至った症例は13例(0.2%)のみであった。2017年までにみられた経年的な報告数の増加において、この届出基準の追加による影響は現時点では大きくないと考えるが、今後周知が進むに連れて経年的な報告数の評価にはより注意が必要となる。

2016年の人口10万当たり報告数の年齢分布は5歳未満と65歳以上に双極性のピークがあり、これまでの報告と同様であった。

また、年齢群別の病型は、5歳未満の小児では菌血症が最多であるのに対し、65歳以上の高齢者では菌血症を伴う肺炎が最も多かった。髄膜炎は小児、特に1歳未満の年齢で多くみられ、このような傾向も過去の報告と同様の結果であった。

今回の解析の制約として一つ目に病型分類方法が挙げられる。NESID上の検体情報は十分ではなく、医師の症状記載における診断を参考に病型分類を行ったため、分離検体に基づく客観的な病型分類ではない。このためそれぞれの病型において過小評価、過大評価のいずれも有りうると考えられる。また二つ目に、死亡数は感染症発生動向調査の届出時点での情報であり、正確な死亡数及び算出される致命率は異なる可能性がある。

 

2013年4月にIPDが全数届出の対象疾患となって約5年間が経過した。報告数は依然として増加傾向にある。また、2016年11月以降、届出基準において、検査材料として髄液、血液以外に「その他の無菌部位」も追加されたことから、サーベイランスデータとしての解釈には注意が必要である。定期接種導入後のIPDの経時的な疫学変化を捉えるために、今後も継続的にデータの収集と監視を続けることが重要である。

 


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