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感染症法に基づくカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の届出状況、2014年9月~2015年8月

(IASR Vol. 37 p. 15-16: 2016年1月号)

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、メロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す大腸菌Escherichia coliE. coli)や肺炎桿菌Klebsiella pneumoniaeK. pneumoniae)などの腸内細菌科細菌による感染症の総称である。広域β-ラクタム剤以外にも他の複数の系統の薬剤にも耐性であることが多いこと、カルバペネム耐性遺伝子がプラスミドの伝達により複数の菌種に拡散していくことなどにより臨床的にも疫学的にも重要な薬剤耐性菌として、国際的に警戒感が高まっている。日本では、2014年9月19日より感染症法に基づく感染症発生動向調査における5類全数把握疾患となった。本稿では、2014年第38週(9月19日)~2015年第35週(8月30日)までの約1年間の届出状況について報告する。

上記期間に計1,321例の届出があり、男性が822例(62%)であった。診断時の年齢中央値は76歳(範囲0-101歳)で、65歳以上が1,020例(77%)を占めた。届出時点での死亡例は1,321例中52例であった。死亡例の性別は男性が33例、診断時の年齢中央値は78歳(範囲41-101歳)で、母集団の分布と概ね同様であった。

診断から報告までの日数の中央値は1日(範囲0-133日)で、1,107例(84%)は診断から1週間以内に報告されていた。都道府県別では東京都が202例と最も多く、次いで大阪府157例で、すべての都道府県から報告があった。

症状(重複ありn=1,551)については尿路感染症が440例(28.4%)と最多で、次いで菌血症・敗血症309例(19.9%)、肺炎303例(19.5%)であった。なお、216例(16.4%)で2つ以上の症状の記載があり、1例では記載がなかった。

検体(重複ありn=1,411)については尿が416例(29.5%)と最多で、次いで血液が323例(22.9%)、喀痰が281例(19.9%)であった。2種類以上の検体が記載されたのは85例(6.4%)で、5例では記載がなかった。

感染原因・経路(重複ありn=1,396)は「以前からの保菌」が491例と最多で、「不明」の245例と合わせて全体の56%を占め、特定が困難な場合が多いものと考えられた(表1)。複数の感染原因・経路の記載があったのは63例(4.8%)であった。

菌種について、記載がない症例が65例、不適切な菌種の記載(例:腸内細菌、カルバペネム耐性腸内細菌)が17例、対象外の菌種が13例であった(表2)。適切な菌種が報告された1,226例のうち、4例で2種類の菌種の記載があった。そのうち、Enterobacter cloacaeE. cloacae)が398例(398/1,230=32.4%、以下分母同じ)と最多で、次いでEnterobacter aerogenesE. aerogenes)が308例(25.0%)、K. pneumoniae 165例(13.4%)、E. coli 141例(11.5%)であった。

薬剤耐性は1,321例のうち526例はイミペネムとセフメタゾール、420例はメロペネム、334例は両方の方法により確認されていた。一方で、41例は確認方法が記載されていなかった。全1,321例の届出症例のうち、適切な菌種が報告され、かつ薬剤耐性が適切に確認された症例は1,188例(90%)で、10%にあたる133例で菌種、薬剤のどちらかあるいは両方の記載に不備があった。

感染地域は1,316例が国内で、全都道府県から報告があった。4例が国外(中国2、台湾、ネパール各1例)、1例が国内もしくは国外(マレーシア)と報告された。一方で90日以内の海外渡航は523例(40%)で記載がなく、海外渡航歴の確認が不十分と考えられた。

CRE感染症の届出基準を満たし、症状、検体、菌種が特定できた症例は956例であった。症状は尿路感染症が300例(31.4%)と最も多く、次いで肺炎215例(22.5%)、菌血症・敗血症138例(14.4%)であった。検体は尿が最も多く304例(31.8%)、次いで喀痰210例(22.0%)、血液175例(18.3%)であった。菌種はE. cloacaeが最も多く318例(33.3%)、次いでE. aerogenes 238例(24.9%)、K. pneumoniae 120例(12.6%)、E. coli 107例(11.2%)であった。956例中、届出時点での死亡例は28例であった(2.9%)。届出後の死亡が確認できていない可能性や、死因が確認できていないなどの制限があるが、血液からの菌検出やKlebsiella属の検出例で死亡が多い傾向があり、注目すべき特徴の一つと考えられた。

CRE感染症は国内で広く検出されており、発生動向調査の対象疾患としての認知度も浸透していることが示唆された。一方で届出基準を満たさない症例や、海外渡航歴が確認されていない症例も多くみられ、各自治体の入力担当者等との情報共有や、届出様式の改善等による正確な情報の把握が課題と考えられた。


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