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高齢者施設におけるヒトパラインフルエンザウイルス3型集団感染事例(2014年7~8月)および小児におけるヒトパラインフルエンザウイルス流行疫学(2014年)―三重県

(掲載日 2015/7/24)  (IASR Vol. 36 p. 163-164: 2015年8月号)

三重県A市の介護老人保健施設(A施設)において、2014年7月中旬~8月下旬に呼吸器症状を呈する施設入所者が多数確認された。発症した一部の入所者からヒトパラインフルエンザウイルス3型が検出されたので概要を報告する。

2014年8月11日に県内のA施設(入所者100名)から管轄保健所に呼吸器症状を呈する入所者が多数いる旨の報告があった。管轄保健所はA施設内の患者発生状況および感染拡大防止対策の実施状況を調査したところ、2014年7月14日~8月14日の間に発熱、咳、鼻汁過多や咽頭痛を主症状とする入所者が計34名(男性7名、女性27名)確認された。

患者の多くは軽微な症状であったが、3名が肺炎症状を呈し、そのうち1名は入院例であった。一部の高熱を有する入所者にはA施設において簡易迅速診断キットによるインフルエンザウイルス検査が実施されたが、ウイルスは検出されていない。

管轄保健所は、原因を明らかにするために患者5名から鼻汁検体を採取し、当研究所に呼吸器ウイルス検査を依頼した。上記症状を呈した患者のうち5名について呼吸器ウイルス遺伝子検査をRT-PCR法あるいはPCR法により実施した。検出は、インフルエンザウイルス(A~C型)、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV 1~4型)、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルス、ヒトコロナウイルスおよびヒトライノウイルスを対象とした。検査結果は5名全員からHPIV3型遺伝子が検出(表1)されたが、他の呼吸器ウイルス遺伝子は検出されなかった。以上のことから、本事例はHPIV3型を原因とする施設内集団発生と推察された。なお、A施設の感染拡大防止対策の結果、同年8月26日以降、新たな患者は確認されておらず、本発生は終息したものと判断された。

本事例のように集団生活を営む施設では、飛沫や接触によるヒトからヒトへの伝播によって、いったん施設内に感染者数が拡大すると、終息に時間を要することがあるため、早期の対策が重要であると思われる。しかしながら、HPIV感染症は国内での動向が十分に把握されておらず、施設内集団発生においても原因が明らかにされることなく終息に至るケースもありうると考えられる。そこで我々は、今回の高齢者施設内で発生したHPIV3型の集団発生事例と同時期の小児におけるHPIV3型の流行疫学との関連性に注目し、調査を試みた。

三重県感染症発生動向調査事業における2014年1~12月に呼吸器症状(インフルエンザと診断された者を除く)を呈し、県内の医療機関を受診した小児患者204名(1か月児~11歳)を対象に呼吸器ウイルスの調査を実施した。調査の結果、 HPIV は小児患者204名中74名(36.3%)で検出された。表2に検体採取月別のHPIV型別検出状況を示した。HPIV(1~4型)が検出された74名の臨床診断名は、気管支炎32名、喉頭炎15名、咽頭炎13名、細気管支炎10名、および上気道炎4名であった。なかでもHPIV3型は下気道炎症状患者からの検出が69.6%(16/23)と多く、このことは本県での過去の調査1)と同様の傾向を示した。

小児におけるHPIV3型の月別検出状況は、初夏から夏季を中心に5月1件、6月8件、7月9件、8月5件、計23件検出された。HPIV3型が夏季に検出される傾向は、これまでの本県および国内各地における過去の調査結果2,3)と類似していた。本事例のA施設内集団発生についても夏季(7~8月)に患者が確認され、小児領域におけるHPIV3型の流行時期と重なることから、入所者の家族(小児)および施設関係者等が感染ルートのひとつと考えられた。また、本県における血清疫学調査2)から、小児の80%以上が3~4歳までにHPIV3型の抗体を保有しており、HPIV3型は他の血清型(HPIV1、2、4型)と比較し、乳幼児から高齢者に至るまで高い抗体保有率を維持していた。これまでにHPIVは再感染を繰り返し起こすことが示唆されており4)、特に HPIV3型は、日本国内において中学校および院内における高齢者での集団発生事例5-7)など、幅広い年齢層で報告されている。

現在のところ、医療機関および高齢者施設等で使用可能なHPIV検出のための迅速簡易キットがなく、感染拡大防止対策のうえで苦慮するところであるが、小児での積極的かつ継続的なHPIV感染症の動向把握の強化が起因病原体の推察へのひとつの手掛かりとして有用な情報となると思われた。

謝辞:本報告を行うにあたり、検体採取および情報提供にご協力いただいた関係機関の諸先生方および関係各位に深謝いたします。

 
参考文献
  1. 矢野拓弥, 他, 三重保環研年報 14: 53-56,2012
  2. Yano T, et al., Jpn J Infect Dis 67: 506-508,2014
  3. 月別ウイルス検出状況、由来ヒト, インフルエンザ&その他の呼吸器ウイルス, 2013年12月~2015年05月
  4. White DO, et al.,(北村 敬 訳), 医学ウイルス学 第四版: 415-417, 1996
  5. 尾西 一, 他, IASR 20: 223-224, 1999
  6. 山腰雅宏, 他, 感染症学雑誌 73: 298-304, 1999
  7. 田中俊光, 他, IASR 35: 157-159,2014
 
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