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重症熱性血小板減少症候群(SFTS), 2019年6月現在

(IASR Vol. 40 p111-112:2019年7月号)

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)は, 2013年3月4日に感染症法で全数把握の4類感染症(届出基準: http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-43.html)に加えられ, 多くの場合, マダニ媒介性ウイルス感染症としての側面を有する。原因ウイルスはブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類され, 2018年に国際ウイルス分類委員会(ICTV)によりBanyangvirus Huaiyangshan banyang-virusと呼称することに変更されたが, これまで国内外において広くSFTSウイルス(SFTSV)と呼ばれていることから, 本稿ではSFTSVを用いる。SFTSは2011年に中国の研究者らにより初めて報告され, その後, 日本と韓国でも流行していることが確認された。潜伏期間は主に5~14日間で, 主な症状は, 発熱, 消化器症状, 頭痛, 筋肉痛であり, さらに意識障害等の神経症状, 出血症状(歯肉出血や下血等)を合併することがある。身体所見では, 表在リンパ節腫脹や, 上腹部圧痛を認めることがある。血液検査では白血球減少および血小板減少が, 生化学検査ではAST, ALT, LDH等の上昇を認める。生存例では, 発症から1週間程で改善傾向となり, 2週間程で治癒する。一方, 死亡例では呼吸循環不全, 播種性血管内凝固症候群(DIC)などの病態に基づく多臓器不全を認める。

NESIDにおけるSFTS患者の発生状況

2013年3月4日~2019年3月31日までに感染症発生動向調査(NESID)で届け出られた患者報告数は, 2012年以前の発症8例(2005年2例, 2010年1例, 2012年5例)を含む402例()である。発生は毎年5~10月に多く(図1), 西日本を中心とした23府県から報告されている(図2)。なお, 2019年5月に東京都から1症例が届け出られたが, その推定感染地域は長崎県であった(本号4ページ)。患者の性別は, 男性と女性がそれぞれ196例(49%)と206例(51%)で(図3), 年齢は60歳以上が多かった(5~96歳, 年齢中央値74歳)。2013年以降の発症者 (394例) における症状は, 発熱が392例(99%), 消化器症状(腹痛, 下痢, 嘔吐, 食欲不振など)が342例(87%)に認められ, 血液検査では血小板減少と白血球減少が, それぞれ380例(96%), 351例(89%)に認められた。

日本におけるSFTS患者の疫学

日本医療研究開発機構(AMED)研究班「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に対する診断・治療・予防法の開発及びヒトへの感染リスクの解明等に関する研究」では133例の詳細な患者情報に基づいて, SFTSの疫学や臨床情報, 予後リスク因子を解析している。併存疾患が97例(73%)に認められ, 内訳は高血圧(47例, 35%), 糖尿病(27例, 20%), 脂質代謝異常症(15例, 11%), 悪性腫瘍(9例, 7%)であった。死亡患者では悪性腫瘍の併存が多かった。109例(82%)が発症前2週間以内に屋外活動を行っており, うち70例(53%)は農作業であった。研究期間中の全症例における致命率は27%(死亡36例)であり, 各年で致命率の有意な変化はなかった(本号3ページ)。

海外(中国, 韓国, ベトナム)におけるSFTS流行状況

中国の報告数は年々増加し, 2016年は1,300人超であった。韓国でも報告数が年々増加しており, 2018年は259人であった。SFTS患者は中国, 韓国, 日本のみからの報告であったが, 後方視的調査により2019年にベトナムでSFTS患者発生が報告された(本号5ページ)。

SFTSの検査体制

全国の地方衛生研究所にてRT-PCR法によるSFTSV遺伝子検出検査を実施している。国立感染症研究所では要請に応じて定量的リアルタイムRT-PCR法による遺伝子増幅検査や, ペア血清を用いたSFTSVに対する抗体検査を実施している。

動物におけるSFTSV感染

SFTSVは経卵性伝搬で成ダニから幼ダニへSFTSVが受け継がれる経路(マダニ―マダニ経路)と, マダニが哺乳動物を吸血する際にSFTSVを動物に感染させ, さらに感染哺乳動物を吸血することによりSFTSVを獲得する経路(マダニ―哺乳動物経路)により, 自然界で維持されている。現時点でヒト, イヌ, ネコ(チーターを含む)以外の発症動物は, みつかっていないが, 野生動物ではイノシシ・シカ・アライグマや, 家畜では中国や韓国においてウシ・ブタ・ヒツジ・ヤギ・ウマ等の感染が明らかとなっている(本号6ページ)。

SFTSV感染症発症動物とヒトへの感染事例

ネコやイヌがSFTSVに感染し, 発症するとSFTSに特異的な症状を呈する。これらのネコやイヌに噛まれたり, 直接触れることでSFTSVに感染し発症したヒトの事例が確認されており(本号7ページ), 近年, 発症動物から飼い主, 獣医療関係者への感染が, 大きな問題になりつつある。2017年7月にはSFTSV感染によるチーター2頭の死亡が動物園で発生した。これまで, ネコ120頭, イヌ7頭, チーター2頭でのSFTSV感染症の発生が確認されている。無症状の動物がSFTSVの感染源になるかどうかは不明だが, 動物からヒトへの感染事例はすべて発症した動物からであった。感染予防のために原因不明の病気のネコやイヌには, 直接触れないこと, また, 獣医療関係者は普段から標準予防対策を講じることが重要である(本号8ページ)。

SFTSVに対する血清抗体陽性率調査

国内でSFTS報告数の多い地域の住民を対象に抗体陽性率調査が実施されている。愛媛県では患者発生地域を中心に農業・林業従事者50歳以上のハイリスクグループ694人(男性319人, 女性375人)を対象にSFTSV抗体検査が実施され, 抗体陽性者は1名(陽性率0.14%)であった。鹿児島県でも同様の調査が実施され, 646人の対象者中, 抗体陽性者は2人(0.3%)であった。これらの流行地域の住民における抗体陽性率は高くなかったが, さらなる調査・研究が必要である(本号9ページ)。

今後の課題

SFTSVが自然界に存在する地域で生活する人々は感染のリスクにさらされている。マダニ媒介性感染症ではあるが, ネコやイヌなどの伴侶動物からヒトがSFTSVに感染し, 発症しただけでなく, 死亡した事例もあることが確認されている。国内でも家族内感染が疑われる事例が報告され, 中国や韓国では患者から医療従事者への感染事例も報告されている。職業関連感染予防は重要かつ喫緊の課題である。有効なワクチンや治療法がないことから現時点でSFTSに対しては対症療法がなされており, 特異的な治療薬の開発, ワクチンによる予防法の開発が望まれる(本号10ページ)。現在, 抗SFTSV薬として有効性が期待されるファビピラビルの臨床研究や(本号11ページ), ファビピラビル以外の抗SFTSV薬の研究も行われている。国内ではSFTS確認後6年が経過し, 治療や予防に関する調査研究の必要性がますます高まっている。

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