国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.35 No.1(No.407)

E型肝炎 2005~2013年 

(IASR Vol. 35 p. 1-2: 2014年1月号)

 

E型肝炎は、ヘペウイルス科(Hepeviridae )ヘペウイルス属(Hepevirus )のE型肝炎ウイルス(HEV)の感染による急性肝炎である。潜伏期は平均6週間といわれている。臨床症状は発熱、全身倦怠感、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛等の消化器症状を伴い、黄疸が認められるが、不顕性感染もある。臨床症状はA型肝炎との共通点が多い。致死率(1~2%)はA型肝炎より10倍ほど高い。従来は慢性化しないとされてきたが、免疫不全状態にある患者のE型肝炎感染が慢性感染を引き起こすことがある(本号13ページ)。感染経路は、いわゆる途上国では患者の糞便中に排泄されたウイルスによる経口感染が主で、常時散発的に発生しており、時に飲料水を介する大規模集団発生が報告されている。一方、日本をはじめ世界各地で、E型肝炎は動物由来感染症(本号4ページ)として注目されている。

HEVの血清型は1つと考えられ、遺伝型は現在4つ(G1~G4)が知られている。途上国でヒトの地域流行を起こすウイルスは主にG1である。先進国では主にG3とG4の散発的な報告があるが、大規模集団発生の報告はない。またG3およびG4は、ブタやイノシシにも感染することが明らかになっている。

わが国ではE型肝炎は、1999年4月から感染症法に基づく全数把握の4類感染症「急性ウイルス性肝炎」として全医師に診断後7日以内の届出が義務付けられた。その後2003年11月の同法改正に伴い、「E型肝炎」として独立した4類感染症となり、診断後直ちに届出が必要な疾患となった(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-01.html)。

経時的発生状況:感染症発生動向調査において2005年1月~2013年11月にE型肝炎と届出された患者は626例であった(2013年11月27日現在、表1)。2005~2011年は年間42~71例の報告であったが、2012年以降は年間100例を超えている(図1)。国内で感染したと推定された患者(国内例)の割合は2005~2008年には71~79%であったが、2009年以降は86~94%に増加している(図1)。

性別年齢分布:男性502例(推定感染地:国内425例、国外68例、不明9例)、女性124例(国内107例、国外13例、不明4例)と、国内例、国外例とも圧倒的に男性が多い(IASR 26: 261-262, 2005)。国内例は男女ともに中高年が多いのに対し、国外例は幅広い年齢から報告されている(図2)。

診断検査法と遺伝子型(本号3ページ):確定診断した検査法は、2005~2013年はRT-PCR法による遺伝子検出が626例中303例(48%)、ELISA法によるIgM抗体検出が228例(36%)、IgA抗体検出が171例(27%)であった(重複を含む)(表1)。2011年10月にE型肝炎のIgA抗体検出キットが保険適用となり、2012年以降IgAによる診断が大きく増加している。2013年に感染症発生動向調査の届出基準の検査方法にIgAが追加された。

遺伝子型が報告された86例の内訳は、G1が2例(国内1例、国外1例)、G3が39例(国内36例、不明3例)、G4が45例(国内40例、国外5例)で、G2の報告はなかった。

推定感染地:国内532例について都道府県別報告状況を図3に示す。2005年~2013年11月までに42都道府県から報告されている。北海道では毎年報告があり(本号7ページ)、国内例の34%と最も多く、次いで東京都からの報告が多い(14%)。国外81例の主な推定感染地はアジアで、中国が最も多く(42%)、インド(17%)、ネパール(9.9%)と続く(表2)。

推定された感染経路: 2005年~2013年11月に報告された626例のうち、推定感染経路の記載があった国内250例中、肉類の喫食が大部分であった。ブタ(肉やレバーを含む)が88例(35%)、イノシシ60例(24%)、シカ33例(13%)、ウマ10例(4.0%)、貝(牡蠣など)11例(4.4%)などで、その他に動物種不明の肉(生肉、焼肉など)あるいはレバーがそれぞれ37例(15%)、24例(9.6%)であった(重複を含む)。それ以外に、動物の調理・解体・処理などが感染原因と推定されたものが4例あった。国外17例中では、生水・井戸水などの飲料水6例(35%)、ブタあるいは動物種不明の肉の喫食が各4例(24%)記載されていた。

動物でのHEV感染状況:ブタのHEV感染が世界各地で報告されている。日本国内の調査でも2~3カ月齢のブタの糞便からHEV遺伝子が高率に検出され、出荷時のブタ(6カ月齢)の抗体保有率は90%以上であった。HEV遺伝子は、出荷されているブタレバーからも検出されていた(本号8ページ)。また、日本の野生イノシシの抗体保有率(34%)はブタより低いが、HEVが広く侵淫していることが明らかにされている。

一方、日本では感染源の1つと考えられているシカからはHEV遺伝子の検出報告はなく、熊本県で実施された調査でも、シカ(肝臓・血液・筋肉)からはHEVは検出されなかった(本号9ページ)。また、ウシ、ヒツジ、ヤギなどの動物からも、HEV遺伝子の検出報告はない(本号10ページ)。

最近、ヒトへの感染性についてはまだ明らかでないものの、HEVと同じくヘペウイルス科に属すると考えられるウイルスが、ラット、ウサギ、コウモリ、フェレットなどからも検出されている(本号10ページ)。 

HEV感染予防:厚生労働省は、平成16(2004)年には通知を発出し注意喚起している(平成16年11月29日食安監発第1129001号医薬食品局食品安全部監視安全課長通知http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/kanshi/041129-1.html)。ホームページに「食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について(E型肝炎Q&A)」を掲載し、ブタならびに野生動物の肝臓・生肉喫食を避け、十分加熱調理して喫食することの必要性を狩猟者、食肉関係者および消費者向けに訴えてきた。国民全体に感染のリスクについてより一層の周知徹底が重要であると思われる。また、流行地へ渡航する際のE型肝炎予防には、A型肝炎同様、飲み水に注意し、加熱不十分な食品の喫食を避けることが必要である。なお、E型肝炎ワクチンは日本においては基礎研究段階である。

 

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はじめに
 
 1989年にHoughtonら米国カイロン社の研究グループにより感染チンパンジー血漿から C型肝炎ウイルス (HCV) の遺伝子断片が発見された(Choo et al., 1989, Kuo et al., 1989)。そして、それを基にしたスクリーニング系の導入により、輸血用血液の抗体スクリーニングが可能となり、我が国では輸血による新規感 染は激減した。しかしながら、HCV感染者は日本で約200万人、世界中で1億7000万人にのぼるとされ、その多くが10-30年という長期間を経て慢 性肝炎から肝硬変へと進行し、高率に肝細胞癌を発症する(Saito et al., 1990, Alteret al., 1995, Bisceglie et al., 1997, Grakoui et al., 2001, Lauer et al., 2001, Poynard et al ., 2003, Pawlotsky 2004)。現在、HCV感染症に対する主要な治療法はインターフェロンとリバビリンによる併用療法であるが、投与法や薬物の形態が工夫された結果、よう やく半数以上の患者に有効となったが、未だ十分でなく、強い副作用も問題となっている。より有効な治療法の開発が望まれているが、HCVには効率の良いウ イルス培養系と実験用の感染小動物が存在しなかった。そのため、HCVの基礎研究はウイルス遺伝子の発現産物の機能解析を中心に進み、HCVのウイルス学 的な解析はチンパンジーを用いた感染実験に頼るしか無いわけだが、倫理的な問題やコストの面からも安易にできる実験ではなかった。このような状況がHCV の基礎研究の妨げになり、抗ウイルス薬やワクチンの開発が遅れてきた。しかし、1999年に培養細胞で自律複製する構造領域を欠くサブゲノムレプリコンが 開発され(Lohmann et al., 1999)、これを皮切りにHCVの複製に関する研究が精力的に進められてきた。また、レトロウイルスまたは水胞性口内炎ウイルスのエンベロープ蛋白を欠 損させ、代わりにHCVのエンベロープ蛋白を持ったシュードタイプウイルスを感染モデルとして用いることで、HCVの感染に関する研究は大きく進歩した (Lagging et al., 1998, Matsuura et al., 2001, Bartosch et al., 2003, Hsu et al., 2003)。さらに、劇症肝炎患者から単離されたJFH-1株のゲノムRNAを肝癌細胞由来のHuh-7細胞に導入することにより、感染性ウイルス粒子を 培養細胞で作製する技術が2005年に確立された(Wakita et al., 2005, Zhong et al ., 2005, Lindenbach et al ., 2005)。これは、レプリコンシステムやシュードタイプウイルスと異なりHCVの生活環 (感染、翻訳、複製、ウイルス粒子形成・放出) をすべて再現可能な実験系であり、HCV研究を急速に加速させた。

国立感染症研究所・ウイルス第二部 脇田隆字 

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