国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.33 No.8(No.390)

溶血性レンサ球菌感染症 2006年4月~2011年

(Vol. 33 p. 209-210: 2012年8月号)

 

化膿性疾患をおこす主要な溶血性レンサ球菌感染症の原因菌には、A群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes :以下GAS)、B群レンサ球菌(S. agalactiae :以下GBS)とC、G群レンサ球菌(S. dysgalactiae subsp. equisimilis : SDSE)などが含まれる。GASによりおこる感染症には急性咽頭炎、猩紅熱、丹毒、蜂窩織炎、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)があり、感染後の合併症としてリウマチ熱、急性糸球体腎炎がある。GBSによる感染症には新生児の菌血症、髄膜炎、成人の敗血症、肺炎などがあり、SDSEは成人に敗血症やSTSSをおこす。

感染症法に基づく感染症発生動向調査では、溶血性レンサ球菌が引き起こす感染症のうち、STSSが全医師に届出義務のある5類感染症に、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎が小児科定点報告の5類感染症に位置付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症:前回特集(IASR 25: 252-253, 2004)で、STSS患者の届出基準の見直しが必要であることを指摘し、2006年4月1日に届出基準が変更された。基準変更後の2006年4月~2011年末までに報告されたSTSS患者は698例で、2011年に急増した(表1)。死亡例は248例であり、そのうち半数以上が発病から3日以内に死亡していた。

STSS患者発生は1~6月に多い(図1)。患者は全国47都道府県で発生しており、多くの都道府県では人口10万人当たりの報告数が1未満であるが(図5)、富山県(1.29)と島根県(1.26)は1を超えていた。患者の性比は1.21(男382、女316)で、年齢をみると、男は60~64歳、女は75~79歳が最も多かった(図2)。起因菌は、A群が毎年最も多く(図1)、7割を占めた(表1)。

わが国では、1992年に典型的なSTSS症例が初めて報告されたことに伴い、本感染症の病原体サーベイランスを衛生微生物技術協議会溶血性レンサ球菌レファレンスセンター(以下SRC)で行っている(IASR 18: 25-26, 1997および本号3ページ)。主として疫学マーカーであるT血清型別とemm 遺伝子型別、および薬剤感受性試験を実施している。

2006~2011年までにSTSS患者から分離された280株ではT1が148株(53%)と最も多く、特に2010年以降、T1型の割合が増加している(2009年35%、2010年61%、2011年71%)(図3a)(本号4ページ)。届出基準変更により、A群以外の様々なβ溶血性レンサ球菌もSTSSを引き起こすことが一層明らかとなり、SRCに収集された菌株の中には、今までみられなかったanginosus group(C群、F群や群別不能)の菌もみられている(http://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/reference/13_streptococii.pdf)。

STSSの治療には、ペニシリン系抗菌薬の大量投与とクリンダマイシン投与が推奨されている。SRCで検査した280株すべてが、ペニシリン系抗菌薬であるアンピシリン、ペニシリンGに対して感受性を示した。一方、毎年5%前後のクリンダマイシン耐性株が分離されており、特に2009年に15%に増加した(本号5ページ)。また、2011年に増加したT1型株はほとんどがエリスロマイシン耐性であった(本号5ページ)。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎:2006~2011年の感染症発生動向調査によるGAS咽頭炎の年間患者報告数は、202,579~278,990であった。一定点当たり患者報告数は、毎年夏に減少している(図4)。また、患者は4~7歳が中心で、7歳以下が7割を占め、年次ごとの年齢分布に大きな変化はみられなかった。

2006~2011年に全国の地方衛生研究所でT型別が実施されたA群レンサ球菌のSRCへの年間報告数は、1,002~2,188であった。検出割合が上位のT型は、2006~2008年はT1、T12およびT4であったが、2010年にT4が減少した。2009年にT25、2010年にTB3264、2011年にT1が増加した(図3b)。

SRCで検査したGAS咽頭炎由来の分離株は、ペニシリン系抗菌薬であるアンピシリンに対して感受性を示したが、エリスロマイシン等のマクロライド系抗菌薬には、50%近くの株が耐性を示した(本号6ページ7ページ)。

また近年、国内外で調理者から食品を介してのGAS咽頭炎の集団発生が報告されている。2005年7月に神奈川県の大学で弁当を喫食した461名中298名が発症(Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 28: 305-306, 2009)、2006年6月にデンマークで社員食堂を利用した200~250人が発症(Epidemiol Infect 136: 1165-1171, 2008)、2010年6月に埼玉県の寄宿舎で喫食者78名中21名が発症した事例が発生している。予防として、調理従事者は常にマスクや手袋を着用することが重要である。咽頭炎の集団発生時には、喫食調査と調理従事者の咽頭培養も考慮する必要がある。

おわりに:2011年にはSTSSの報告数が、2006~2009年に比べ倍増したが(表1)、SRCで検査されたSTSS患者由来菌株数は届出患者数の4割であった。感染症発生動向調査における病原体サーベイランスでは、STSS患者およびA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者から菌を分離し、型別や薬剤感受性の動向を把握し、その情報を臨床医や公衆衛生担当者に正確に還元することが、患者の病態解明、早期治療を行うために重要である。起因菌の全体像を把握するためには、今後さらに、溶血性レンサ球菌菌株を収集するシステムを強化する必要がある。

速報:2012年第28週現在、STSS患者報告数は146例であり、2011年第28週時点での127例を上回っている(図1)。このペースでいくと、2012年は200例を超える可能性がある。

なお、国内の報告は少ないが、中国、ベトナム、タイにおいては豚レンサ球菌(S. suis )による人の侵襲性感染症が発生しており(IASR 26: 241, 2005 & 26: 242, 2005および本号9ページ)、今後、さらなる調査が必要である。

 

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