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<速報>南米から帰国後にチクングニア熱と診断された3例

(掲載日 2015/5/12)  (IASR Vol. 36 p. 112-113: 2015年6月号)

チクングニア熱は蚊が媒介するウイルス感染症であり、本邦では四類感染症および検疫感染症に指定されている。アフリカ起源の疾患と考えられるが、2005年にコモロ諸島でアウトブレイクが発生して以来、南アジア、東南アジア、オセアニアに拡大し、世界的な流行を示している。2013年12月からアメリカ大陸でも流行が起こっており、北米・中米・南米を合わせて100万人以上の感染者が出ていると推計されている1)。国立国際医療研究センターでは2014年10月~2015年2月までに3例の南米からの輸入チクングニア熱症例を診療しており、疫学的に重要と考えられるため報告する。

症例1:症例は特に基礎疾患のない40代日本人男性、主訴は左膝関節痛であった。2014年8月末~10月10日までトリニダード・トバゴ、ガイアナ、スリナム、ジャマイカ、ベリーズに出張していた。ガイアナ滞在中の9月7日に蚊に刺されたことを自覚しており、9月11日から発熱、関節痛、頭痛があり、現地の病院を受診したが対症療法のみで経過観察されていた。発熱、頭痛は1週間ほどで消退したものの、その後も倦怠感、左膝および両側踵の疼痛が持続するため国立国際医療研究センターを受診した。来院時、バイタルサインに異常はなく、膝関節および両足関節に関節炎の所見はみられなかった。その他、特記すべき異常所見は認めなかった。血液検査上も白血球やCRPを含め異常所見はなかった。1週間続く発熱の後に遷延する関節痛と、南米での流行状況からチクングニア熱を疑い、国立感染症研究所(感染研)ウイルス第一部に抗体検査を依頼したところ、チクングニア熱IgM陽性であり、チクングニア熱と診断した。関節痛症状はその後も続いたものの、2週後には改善がみられた。

症例2:症例は高血圧症のため加療中の40代コロンビア人女性、主訴は全身の関節痛であった。2014年10月13日~11月22日までコロンビアのボゴタに帰省していた。10月22日に発熱と関節痛が出現し、現地の病院を受診しデング熱と診断された。なお、コロンビアに住む患者家族は別の現地病院でチクングニア熱と診断されたという。日本に帰国後も関節痛が遷延するため近医を受診し、精査のため当院に紹介受診となった。当院来院時、バイタルサインおよび身体所見に特記すべき所見はなく、血液検査上もCK 205 U/Lと軽度上昇を認めるのみであった。チクングニア熱が疑われ、感染研ウイルス第一部に検査を依頼したところ、チクングニア熱IgM陽性であり、チクングニア熱と診断した。関節痛に対しロキソプロフェンを処方し、関節痛症状は速やかに改善した。

症例3:症例は特に基礎疾患のない50代コロンビア人女性、主訴は発熱と関節痛であった。2014年12月20日~2015年1月5日までコロンビアのモンテリアに帰省していた。日本帰国後の1月5日より全身関節痛、下痢、倦怠感が出現した。また、翌日から40℃の発熱があり、関節痛も増強したため1月8日に近医を受診し、1月9日に精査加療目的で当院に紹介となった。来院時、発熱はなく、その他バイタルサインに異常はなかった。身体所見では、両手関節、両第3指PIP・MCP関節、右膝関節、両第1趾MTP関節に圧痛を認め、両手関節と右膝関節には腫脹もみられた。血液検査では白血球が2,220/μlと減少しており、CRP 3.46mg/dlと上昇していた。チクングニア熱が疑われ、感染研ウイルス第一部に検査を依頼したところ、PCR検査でチクングニアウイルス遺伝子が検出され、チクングニア熱と診断した。1週間後の再診時には臨床症状はすべて消失していた。

チクングニア熱はトガウイルス科アルファウイルス属に属するチクングニアウイルスによる蚊媒介性感染症であり、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカなどが媒介する2)。潜伏期間は3~12日(通常3~7日)であり、発熱・頭痛・筋肉痛・関節痛・発疹を特徴とする。症状はデング熱と似ているが、チクングニア熱の方がデング熱よりも急性期の関節痛が強く、症例1, 2のように関節痛・関節炎が遷延することがあるのが特徴である。また、血液検査上はデング熱に比べて白血球減少・血小板減少が目立たない。これまで本邦の輸入チクングニア熱は、東南アジアや南アジアからの輸入例が大半を占めていたが、2013年末からのアメリカ大陸での大流行に伴い、本3症例のようにアメリカ大陸からの輸入例の増加も懸念される。診断はPCRまたは抗体検査による。症例3ではPCRによってチクングニアウイルス遺伝子が検出されており、ウイルス血症の状態であった。

発症時日本は冬季であり、ヒトスジシマカは活動期ではなかったが、ヒトスジシマカ活動期にウイルス血症の状態で刺咬されれば、国内でもヒト–蚊–ヒトのサイクルが生まれ、2014年のデング熱の国内流行のように3)、チクングニア熱の流行がみられる可能性がある。厚生労働省が策定している「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」は、デング熱だけでなくチクングニア熱も対象疾患として扱われている。チクングニアウイルスはヒトスジシマカで増殖しやすいとされており、日本のような温帯ではデング熱よりも定着しやすいと考えられている。2007年にはイタリアでのアウトブレイクも報告されている4)。国内での流行を防ぐには、渡航者に対する防蚊対策についての啓発や、海外で感染し国内に輸入されたチクングニア熱患者を早期に診断し、速やかに防蚊対策を徹底することが重要である。 

 
参考文献
  1. Centers for Disease Control and Prevention, Chikungunya in the Americas [Page last updated: January 13, 2015]
      http://www.cdc.gov/chikungunya/geo/index.html
  2. Staples JE, et al., Chikungunya fever: an epidemiological review of a re-emerging infectious disease, Clin Infect Dis 2009 Sep 15; 49(6): 942-948
  3. Kutsuna, et al., Autochthonous dengue fever, Tokyo, Japan, 2014, Emerg Infect Dis 2015 Mar; 21(3): 517-520
  4. Vazeille M, et al., Chikungunya: a risk for Mediterranean countries? Acta Trop 2008 Feb; 105(2): 200-202, Epub 2007 Oct 12
 
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