国立感染症研究所

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<速報>本邦で初めて分離されたヒトアデノウイルス57型(HAdV57)の1例―島根県

(掲載日 2014/8/21) (IASR Vol. 35 p. 222-223: 2014年9月号)

2014年6月、島根県松江市においてアデノウイルス感染症(気管支炎)と診断された患者からヒトアデノウイルス57型(HAdV57)が分離された。本型のウイルスの分離は本邦において初めてであったことからその概要を報告する。

患者は生後4か月男児、1カ月前から咳、鼻閉、鼻汁がみられ医院を受診したが、6月1日から鼻汁が増加、2日に38~39℃の発熱がみられ、3日に松江市内の病院においてアデノウイルス気管支炎と診断され入院となった。受診時に咽頭の発赤がみられ、咽頭ぬぐい液のアデノウイルス迅速キット(BD ベリターTM システム Adeno)でアデノウイルス陽性であった。下痢などの症状はみられなかった。入院後、低月齢のため細菌の二次感染が懸念され、抗菌薬の投与が行われた。翌日には解熱、呼吸時の喘鳴も消失。4日目には鼻汁が減り、5日目には退院となった。海外渡航歴は不明。母親にも咳嗽がみられたが、詳細は不明である。

当所では患者排泄便(6月3日採取)をFL、A549の2細胞に接種し、ウイルスの分離培養を試みた。A549細胞で1代目(5日目)、FL細胞で2代目(1週間ごとの継代、2代目の3日目)にCPE(cytopathic effect; 細胞変性効果)がみられた。A549細胞にて分離培養されたウイルスについてアデノウイルス中和用抗血清(デンカ生研)の1~6、31型を用い中和試験を行った。アデノウイルス6型抗血清ではその他の抗血清に比べ、CPEが抑えられたが、完全に中和することはできなかった。そこで分離株からDNAを抽出し、HexonC4領域(AdnU-S’2/AdnU-A2プライマー)1)のPCR検査を実施し、プロダクト554bp(1906-2459)のダイレクトシークエンスにより遺伝子配列を決定した。BLAST検索を行ったところ、HAdV57(accession No.HQ003817)と96%一致した。日本での分離報告が今までないことから、国立感染症研究所に検査を依頼した。その結果、ヘキソンコード領域ではアデノウイルス57型と98%、ファイバーコード領域ではアデノウイルス6型と98%、ペントンコード領域ではアデノウイルス1型や6型と99%一致した。これらは、アデノウイルス57型と同じであり、分離株はアデノウイルス57型と判定された。57型は遺伝子型であり、ペントン、ヘキソン、ファイバー領域がそれぞれ1型、57型、6型であるので、PHF表記法によるとP1H57F6である。

HAdV57(Strain16700, accession No.HQ003817)は2001年にアゼルバイジャンの4歳健康児の便から分離された2)アデノウイルス6型のヘキソン遺伝子が組み替えられた新分類のウイルスである。その後、2005~2006年に中国でも分離されている。アデノウイルスのC種に属し、ヒトアデノウイルス6型と全ゲノム比較で95%以上の相同性をもつが、中和決定領域を含むヘキソンに主要な差異がみられる。

今回分離されたHAdV57は、A549細胞では接種後5日目にCPEが認められ、容易に分離することができた。しかし、抗血清を用いた中和試験では不完全ながらアデノウイルス6型抗血清でCPEが抑制されるとの報告があり3)、当所でも同様の傾向が認められたことから、これまで分離され6型と同定された分離株にHAdV57が混在している可能性がある。C種のlow number (1、2、5、および6型)中和同定についてはHAdV57も考慮するべきと考えられた。

患者の海外渡航歴は不明であるが、生後4か月という年齢を考えると、海外での感染は考えにくく、国内にすでに浸淫していると考えられる。

近年、アデノウイルスは新しい遺伝子型がいくつか報告されているが、そのうちC種に属するウイルスは57型のみで、その病態、流行像等についても不明な点が多く、今後の動向を注視する必要がある。

参考文献
  1. 咽頭結膜熱・流行性角結膜炎, 検査、診断マニュアル(第2版), 国立感染症研究所・地方衛生研究所全国協議会編
  2. Michael PW, et al., J Clin Microbiol 49: 3482-3490, 2011
  3. Alexander NL, et al., J Gen Virol 89: 380-388, 2008

島根県保健環境科学研究所
  辰己智香 和田美江子 三田哲朗 飯塚節子
松江赤十字病院小児科
  樋口 強
国立感染症研究所感染症疫学センター
  花岡 希 藤本嗣人

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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