国立感染症研究所

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<速報>海外で経口弱毒生ポリオワクチンを投与された小児の便検体から検出されたポリオウイルスワクチン株について―熊本市

(掲載日 2015/4/15)  (IASR Vol. 36 p. 86-87: 2015年5月号)

2014年12月に熊本市で感染性胃腸炎と診断された患者からポリオウイルス1型ワクチン株が検出された。国内では、2012年9月に不活化ポリオワクチン(inactivated polio vaccine: IPV)が定期接種に導入されたが、IPV導入前の経口弱毒生ポリオワクチン(oral polio vaccine: OPV)接種に由来する4例1)のワクチン株検出事例以降、約2年ぶりの検出となったので報告する。

対象および方法:患者は生後3か月男児。2014年10月31日に下痢と発疹で発症し、診断名は感染性胃腸炎であった。検体は糞便(11月4日採取)で、感染症発生動向調査事業の検体として搬入され、Vero E6、HEp-2、RD-Aの3細胞に接種しウイルス分離を試みた。RD-A細胞で2代目(1週間ごとの継代)にCPE(cytopathic effect: 細胞変性効果)が認められたことより、エンテロウイルス属の中和試験を行ったところ、エンテロウイルスNT試薬「生研」混合D(Polio-1,2,3)において中和されたため、マイクロ法によるポリオウイルスの同定およびPCR-RFLP法を用いたポリオウイルスの型内株鑑別試験2)などの追加試験を行うと同時に、熊本市保健所感染症対策課へ患者の疫学情報の収集を依頼した。

結 果:当所での追加試験の結果、ポリオウイルス1型ワクチン株(Sabin 1型)であることが推察された。また、患者の疫学情報によれば、2014年10月にエジプトへの渡航歴があり、現地でOPVを接種していた。そこで、国立感染症研究所にポリオウイルス分離株の型内鑑別および全VP1領域塩基配列解析による確認試験を依頼した結果、ポリオウイルス1型ワクチン株(塩基配列は100%一致)と同定された。

考 察:日本国内では1980年の1型ポリオの症例を最後に、その後は野生株ポリオウイルスによるポリオ麻痺症例はみられておらず、また、2000年10月には、日本を含む西太平洋地域全体でのポリオ根絶宣言がなされた。世界的な根絶に向けた活動が続く中で、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアは2015年現在でも流行国であり、これらの国々や周辺の国々においては、野生株あるいはワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)による患者発生がみられている。VDPVとは、ワクチン株が長期間伝播する間に変異を蓄積し、野生株と同様の性質を持つに至ったウイルス株のことである。わが国では、野生株あるいはVDPVが検出された場合、ポリオ発症の有無にかかわらず、感染症法に基づく2類感染症として、診断した医師は直ちに患者・無症状病原体保有者の全数を届け出る必要がある(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-01.html)。

今回は、海外でOPV接種を受けた後にワクチン株ポリオウイルスが検出された感染性胃腸炎事例であり、VDPVでもなく、OPVを用いている国々で報告されるワクチン関連麻痺等ポリオ症例でもなかった。今後もワクチン株、VDPVや野生株ポリオウイルスの国内への輸入は想定され、ポリオウイルスは、保育園や幼稚園など乳幼児が集団生活をおくる場所では糞口感染が起こりやすいことから、集団生活に入る前の乳幼児に対して、現在国内で定期接種として導入されているIPVの接種率を高く維持し、十分な抗体保有率を保持することが重要である。

当所では感染症発生動向調査による感染性胃腸炎患者の糞便検体も、念のためウイルス分離を行ってきた。今般、ウイルス分離の意義を再認識し、ポリオウイルスが検出された際には、ワクチン株か、あるいは届出が必要な野生株/VDPVかの迅速な鑑別は極めて重要と考えられた。

謝辞:ご指導を賜りました国立感染症研究所ウイルス第二部・第二室室長の清水博之先生他、同室の先生方に深謝いたします。

 
参考文献
  1. エンテロウイルスレファレンスセンター報告(衛生微生物技術協議会第34回研究会)
    http://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/reference/H25_Entero.pdf
  2. Balanant JG, Guilot CA, Delpeyroux F, Crainic R, The natural genomic variability of poliovirus analyzed by a restriction fragment length polymorphism assay, Virology 1991; 184: 645-654
  3.  
熊本市環境総合センター
  西澤香織 杉谷和加奈 矢坂多佳子 岩永貴代 大澤恵美
熊本市感染症対策課
はっとり小児科  服部愛子
 

 

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