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マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)を病原体とする呼吸器感染症である。感染経路としては、飛沫感染による経気道感染や、接触感染によって伝播すると言われている。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられるが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはない。潜伏期間は2~3週間とインフルエンザやRSウイルス感染症等の他の小児を中心に大きく流行する呼吸器疾患と比べて長く、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。本症の特徴的な症状である咳は、初発症状発現後3~5日より始まることが多く、乾性の咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3~4週間)持続する。喘息様気管支炎を呈することは比較的多く、急性期には40%で喘鳴が認められる。以前はマイコプラズマによる肺炎は、比較的元気で一般状態も悪くないことが特徴であるといわれていたが、重症肺炎となることもあり、胸水貯留は珍しいものではない。他に合併症としては、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群など多彩なものが含まれる。
治療は抗菌薬投与による原因療法が基本であるが、Mycoplasma pneumoniaeは細胞壁を持たないために、β-ラクタム系抗菌薬には感受性はない。これまでは蛋白合成阻害薬であるマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬とされてきたが、以前よりマクロライド系抗菌薬に耐性を有する耐性株が存在することが明らかとなっており(IASR速報:https://idsc.niid.go.jp/iasr/rapid/pr3814.html、IASR特集:マイコプラズマ肺炎https://idsc.niid.go.jp/iasr/28/324/tpc324-j.html)、近年その耐性株の割合が増加しつつあるとの指摘もあり、特に小児科の臨床現場に対する影響が懸念される。
診断には特異的IgM抗体迅速検出キットが開発され、臨床現場において活用されてきているが、幼児、学童の初回感染例では発病1週間以内では陰性を示すことが多く、また単一血清で高い抗体価であっても感染の既往を示している可能性を否定できない。最近は、PCR法やLAMP法による遺伝子検出が次第に多くの検査機関で実施されてきており、また平成23年10月からは医療保険の適応となった(厚生労働省ホームページhttp://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T111013S0010.pdf 参照)ことから、これらの検査によってより正確な診断が今後さらに普及することが期待される。マイコプラズマ肺炎は、かつては、他の病原体によるものも含まれる「異型肺炎」として発生動向調査が実施されていたが、1999年4月の感染症法施行により、現在の病原体診断に基づく調査となった。現在、マイコプラズマ肺炎のサーベイランスは全国約500カ所の基幹定点医療機関(2次医療圏域毎に1カ所以上設定された、300人以上収容する施設を有する病院)からの報告に基づいている。
2011年第25週以降、マイコプラズマ肺炎の基幹定点からの定点当たり報告数は、1999年の感染症発生動向調査開始以来の同時期と比較して最も多い状態が2012年第35週現在まで1年間以上にわたって継続している。2012年第35週の定点当たり報告数は1.09(報告数510)と前週の0.98よりも増加し、昨年同時期の0.74を大きく上回っている(図1)。都道府県別では栃木県(5.57)、群馬県(4.25)、埼玉県(3.89)、岐阜県(2.80)、青森県(2.67)、愛知県(2.57)、福島県(2.43)の順となっており、全国平均を上回っているのは関東地方を中心に東日本の地域に多い(図2)
2012年第1~35週の定点当たり累積報告数は30.3(累積報告数14,150)であり、2011年を除けば、既に2000年以降の各年の年間の定点当たり累積報告数を上回っており、また2011年の第1~35週の定点当たり累積報告数17.12(累積報告数7,891)を大きく上回っている。
年齢群別では5~9歳31.4%、0~4歳30.2%、10~14歳18.6%、20~39歳7.8%、60歳以上5.3%の順となっている。2002年から2011年まで10年間にわたって0~4歳の割合が最多である状態が続いていたが、2012年はこれまでのところ、2000年、2001年と同様に5~9歳が最多であり、また10~14歳の報告割合は2000年以降では最多となっている。一方で14歳以下が全報告数の80%前後を占めていることは例年と同様であり、マイコプラズマ肺炎の報告の中心が小児であることには変わりはない(図3)。
2011年のマイコプラズマ肺炎は、夏期休暇終了後にその定点当たり報告数がさらに増加し、第49週のピークを迎え、年間の定点当たり累積報告数は2000年以降のこれまでの最多報告数(2010年、定点当たり累積報告数22.57)を大きく上回るものとなった。2012年は第1週から第35週まで一貫して2011年の報告水準を上回った状態が継続しているが、今後は夏期休暇の終了を迎えることとなり、報告数がさらに大きく増加していく可能性が高い。これからのマイコプラズマ肺炎の発生動向には、より一層の注意深い観察が必要である。 |