麻疹に伴ってさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。麻疹の合併症には以下のものがあります。
(1)肺炎: 麻疹の肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
[ウイルス性肺炎] ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎です。病初期に認められ、胸部X 線上、両肺野の過膨張、び漫性の浸潤影が認められます。また、片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もあります。
[細菌性肺炎] 細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬により治療されます。
[巨細胞性肺炎] 成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎です。肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いものです。発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられます。本症では麻疹抗体は産生されにくく、長期間にわたってウイルスが排泄されます。
(2)中耳炎 :細菌の二次感染により生じ、麻疹患者の約5 ~15%にみられる最も多い合併症の一つです。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。乳様突起炎を合併することがあります。
(3)クループ症候群 :クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は小児(特に乳幼児)の麻疹の合併症として多くみられるもののひとつです。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理を要します。
(4)心筋炎 :心筋炎、心外膜炎をときに合併することがあります。麻疹の経過中半数以上に、一過性の非特異的な心電図異常が見られるとされますが、重大な結果になることは稀です。
(5)脳炎 :麻疹を発症した1,000例に0.5~1例の割合で脳炎を合併します。発生頻度は中耳炎や肺炎のようには高くはありませんが、肺炎とともに死亡の原因となり、注意を要します。発疹出現後2~6日頃に発症することが多く、髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加します。麻疹そのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20~40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。
(6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE) :麻疹に罹患した後、7~10年で発症することのある中枢神経疾患です。知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示します。発症から平均6~9カ月で死の転帰をとる、進行性の予後不良疾患です。麻疹ウイルスの中枢神経細胞における持続感染により生ずるとされますが、本態は未だ不明です。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人とされています。
|