IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆我が国における麻しんの排除状態の認定

 

 世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局は、麻しんの排除確認の国際的判断基準(Verification Criteria)として、麻しん排除確認ガイドライン(Guidelines on Verification of Measles Elimination in the Western Pacific Region. 2013)1)を提供してきた。麻しん排除状態の認定には、以下の3つの基準を満たすことが必要とされる。

●最後に確認された土着の麻しんウイルス株(12カ月以上地域循環した麻しんウイルス)の存在から少なくとも36カ月が経過し、土着の麻しんウイルス株の地域循環がなくなっていることが示されること。
●麻しん排除の確認が可能なサーベイランスがあること。
●土着の麻しんウイルス株の伝播がなくなっていることを支持する遺伝子型の証拠が存在すること。

 我が国は「麻しんに関する特定感染症予防指針(以下、指針)」(2007年12月28日厚生労働省告示第442号、2013年3月30日改訂厚生労働省告示第126号)2)に基づき、2015年度までに麻しんの排除を達成し、WHOによる麻しんの排除の認定を受けることを目標とし、麻しんの排除に向けた取り組みを進めてきた。  まず、麻しんの排除状態の認定には、排除の確認が可能なサーベイランスの存在が必要である。国レベルでの麻しんサーベイランスとしては、発生動向調査において2008年から、それまで行われていた定点サーベイランスから、症例ごとの全数サーベイランスへと移行した。全数サーベイランスにより報告された麻しん症例数は、2008年に11,013例であったが3)、2009年に732例、2010年には447例、2011年には439例、2012年には283例、そして2013年には232例へと減少した。2014年には、463例(暫定値)と増加したが、大半は2013年の冬から2014年の春に、フィリピン等のアジア諸国からの輸入例の増加に起因し、1年以上の地域循環を起こしていないことがウイルス学的と疫学的解析により示された。また、この様に麻しんウイルスが輸入されても、大きな流行を起こすことなく、散発あるいは小規模に終息したことは、人口レベルでの高い抗体保有率を維持していたことと4)、1例でも発生したら迅速な積極的疫学調査を実施し、適切な感染拡大予防策を行う自治体の体制整備の成果と思われた。また、日本の土着の麻しんウイルス株とされていたD5は、2010年5月を最後に国内では検出されていない。

 麻しん排除を目指す上で、ワクチンは重要な役割を果たす。1978年に、麻しんは予防接種法の下での国の定期接種対象疾患となり、1回の麻しんワクチン接種が開始された。2006年には、麻しん風しん混合(MR)ワクチンを用いた2回接種が導入された。対象は、麻しん含有ワクチン接種の一回目の接種(MCV1)が生後12月~24月の幼児であり、二回目の麻しん含有ワクチン(MCV2)の接種が小学校入学前1年間の小児である。2007年に策定された指針に基づき、5年間の時限措置として中学1年生(第3期)と高校3年生相当年齢の者(第4期)へのMRワクチン接種が導入された。この年代は2007~2008年における麻しんの流行の中心であり、MRワクチンの2回接種を受ける機会が無かった10代への免疫賦与を行うことが出来た。ワクチン接種率については、2013年度、MCV1については95.5%、MCV2については93.0%であった。2013年度の血清疫学調査(感染症流行予測調査)による分析では、PA抗体による結果として、2歳以上人口の95%以上が抗体陽性であったことが示された。

 2014年に、我が国の麻しん排除認定会議〔National Verification Committee(NVC)forMeasles Elimination in Japan〕は、日本国内ではWHO西太平洋地域事務局の示す、前述の麻しん排除状態の基準を満たす状態であるとして、WHOの地域麻しん排除認定会議(Regional Verification Committee)に報告書(Progress Report of Measles Elimination in Japan)を提出した。その結果、2015年3月27日、WHO西太平洋地域事務局により、日本は西太平洋地域の他の2つの国(ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア)とともに、麻しんの排除状態にあることが認定された5,6)。我が国における麻しんの排除状態の認定に関しては、国や自治体等の関係者により、サーベイランス、疫学調査、検査の徹底等の体制を築き上げてきたこと、また、ワクチン接種への取り組みが大きく寄与したと考えられる。排除状態の維持に向けた今後のますますの取り組みが期待される。

 

【参考資料】

1)世界保健機関西太平洋地域事務局(WHO WPRO).Guidelines on Verification of Measles Elimination in the Western Pacific Region.
http://www.wpro.who.int/immunization/documents/measles_elimination_verification_guidelines2013/en/

2)厚生労働省結核感染症課「麻しんに関する特定感染症予防指針」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/241214a.pdf

3)国立感染症研究所 IASR麻疹2011年(Vol. 33 p. 27-29: 2012年2月号)
http://idsc.nih.go.jp/iasr/33/384/graph/f3841j.gif

4)国立感染症研究所.感染症流行予測調査グラフ 年齢/年齢群別の麻疹抗体保有状況、2014年
http://www.nih.go.jp/niid/ja/y-graphs/5503-measles-yosoku-serum2014.html

5)厚生労働省結核感染症課「世界保健機関西太平洋地域事務局により日本が麻しんの排除状態にあることが認定されました」
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10906000-Kenkoukyoku-Kekkakukansenshouka/img-327100220.pdf

6)世界保健機関西太平洋地域事務局(WHO WPRO). Brunei Darussalam, Cambodia, Japan verified as achieving measles elimination.
http://www.wpro.who.int/mediacentre/releases/2015/20150327/en/

 

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