国立感染症研究所

島根県の麻しん対策―全数把握以後の麻疹報告数とほぼ100%の接種率となった高校の取り組み

 
(Vol. 33 p. 39-40: 2012年2月号)
島根県は人口73万、全国でも有数の少子高齢化過疎県である。小規模自治体では保健師や接種担当者が、接種年齢に達した子を全員把握しており、電話での勧奨だけでなく、未接種者にはかかりつけ医からも勧奨するように仕向けているところもある。人口の多い市では、昼は両親とも働きに出ているため、夜に電話を入れると、強く不快感を示されるケースもあり、親への勧奨がどうしても行き届かないことがある。

集団接種では漏れがほとんど早急にカバーされて実質100%のことが多い。2010年度の県のMR接種率は、第1期が95.1%、第2期が95.6%、第3期が92.9%、第4期が88.8%であった。

全数把握以降の麻しん報告例と麻しん対応事例の検討と、第4期の接種率100%の高校での取り組みを紹介する。

1)全数把握後の麻しん報告
麻しんとして県に報告されたのは2008年以降で24例あり、そのうち20例はPCR検査等で否定された(図1)。麻しん症例として感染症発生動向調査への発生届出症例5例(2008年4例、2009年1例)1) 中、PCR陽性が1例、他4例はPCR未実施であった。

24例中コプリック斑ありとされた6例のうち1例のみPCR陽性で、残りはいずれもPCR陰性であった。IgMが検査された7例では1.21未満が4例、1.21以上~5未満が3例(1.77、2.47、2.86)であった。

否定例と届出症例の合計24例中1例が麻しん症例と考えられ、残り23例は麻しんではなかったと思われる。今後は検査体制の周知をさらに進め、正確な診断を期したい2, 3, 4) 。

2)MRワクチン接種率100%を達成した県立高校の取り組み
県立某高校では麻しん後の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)例を病院実習で経験した養護教諭を中心に、全校あげての麻しん対策が行われ、その成果でほぼ100%の接種率を達成していることを紹介する。

文部科学省・厚生労働省からの高校生むけの勧奨パンフレット、松江市からの保護者にあてたお知らせ、さらに学校長からのお知らせ、保健室からの保健だよりなど、繰り返し勧奨がなされた。これらはどこの高校でも実施されている。しかしこれだけ次々と広報や勧奨の文書を配布されても、本人たちが接種に乗り気でなければ実効性が乏しい。また、アレルギー疾患など接種要注意者ははじめから接種を敬遠しがちであるが、本人や家族に工夫次第で接種が可能なことも伝える。

保護者にも情報が繰り返し理解しやすく伝えられないと協力が得られにくい。養護教諭が一人奮起しても管理職や他の教職員が一緒に対策に加わらないと接種率を上げる方向には向かない。

そのために新入生を迎える段階から生徒や親、さらには教職員に働きかけていくことから始まる。表1に示したように年間の対応スケジュールをたて、接種者と未接種者を絶えずチェックして、未接種者には繰り返し接種を呼びかける。同時に1、2年生にも3年生になると接種することを予告し、心の準備を持たせる。3年生の1学期が始まる4月に第1回の接種勧奨、夏休み前の7月に接種状況調査と未接種者への勧奨、9月下旬に第2回の接種状況調査と10月に未接種者への勧奨、11月に第3回の接種状況調査と未接種者への勧奨、12月には保健室での未接種者への勧奨など、ローラー作戦で未接種者を一人一人なくしていく。

予診表を無くした場合は市の担当者に電話をして指示を受けること、部活で接種が困難な場合は、テスト中の都合がつく日に接種すること、下宿生や他市町村からの入学者への接種医療機関の紹介、また、接種済み生徒からの勧奨、接種報告書の提出等、担任の協力のもとで全校あげて 100%をめざした(表2)。進学校であり、周囲の皆が接種を済ませると自発的に未接種者へ生徒同士からの働きかけもあり、未接種のままではいけないと思うようになるという。

麻しんの情報源は保健室だよりからが最も多く、次いで家族、テレビ、さらにはリーフレットとなっており、学校での生徒への指導や、親への集会等での説明が役に立っている。

また、接種の動機では親から勧められたことがトップであり、これから親への説明・勧奨が重要なことがうかがわれる。学校からの勧奨、さらには情報を得て自分から受けようとするのが続いている。高校生では自分から自発的に接種することが望ましいが、親が勧めることにより受ける気になるとすれば、親への説明の機会をうまく設定することが重要になる。

2008~2011(平成20~23)年度の現時点まで、対象者 962名中、未接種者は24名であった。罹患済みのためが11名と半数を占め、残り13名は様々な理由で接種ができなかった。なお、2009(平成21)年度からは罹患者も勧奨の対象とした。

麻しん対策の資料等を快く提供していただいた県薬事衛生課、県保健環境科学研究所、県立高養護教諭の関係者にお礼を申し上げる。

 参考資料
1)島根県感染症情報センターHP http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/dis/zensu/516.htm
2)島根県感染症情報センター提供の麻しん対応事例
3)島根県麻しん対策会議平成21年3月4日配布資料
4)医師による麻しん届出ガイドライン第3版
 https://idsc.niid.go.jp/disease/measles/guideline/doctor_ver3.pdf
5)第56回中国地区学校保健協議大会養護教諭部会発表原稿

島根県麻しん対策会議会長・及川医院 及川 馨
島根県健康福祉部薬事衛生課感染症グループ 渡利紗映 三輪信吾 沖原次郎 桐原祥修
島根県保健環境科学研究所 大城 等
島根県立高校 角 真左子

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