国立感染症研究所

 

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松戸保健所管内における麻しんのアウトブレイク
~概要と保健所における対応について~

(掲載日 2016/10/05)(IASR Vol. 37 p.234-235: 2016年11月号)

千葉県松戸保健所の管内において、2016年7月26日に遺伝子検査で確定した症例を発端とした麻しんのアウトブレイクが発生し、疫学的接点のある合計13例の麻しん症例が確認された()。保健所と関係機関は継続した接触者調査やワクチン接種勧奨など感染拡大防止策を実施し、新規症例の発生の減少を認め、終息に至っている。本アウトブレイクは、遺伝子型D8の麻疹ウイルスによるものであり、ほぼ同時期に発生した関西国際空港職員等における麻しん症例の集積は、遺伝子型H1の麻疹ウイルスによるものと発表されている。

事案の概要

2016年7月26日、松戸保健所管内で2例(症例1,2)が同時に遺伝子検査で麻しんと確定された。症例1は、発症から診断までに時間がかかり、診断時には既に症例2が家族内感染で発症していた。なお、症例1には渡航歴は無く、感染経路は不明である。8月4日に3例目(症例3)が確定した。症例3の患者行動調査や接触者調査から症例2と地域の催しでの接点が推定された(症例2と症例3は互いに面識はない)。遺伝子検査は、県衛生研究所においてReal-time RT-PCRを実施した。陽性検体については、RT-PCRを実施しダイレクトシークエンス法により、N遺伝子のうち450bpの塩基配列を決定し、系統樹解析により遺伝子型を決定した。この結果により遺伝子型D8であることが確定した。

症例3の接触者から、家族内感染1例(症例4)と医療機関等の受診時における二次感染による6例の麻しん症例(症例5~10)が発生した。症例5、症例10からはさらに1例ずつ家族内感染が発生した。また、症例9の医療機関受診時の接触者1名が麻しんを発症した。症例9はRT-nested PCR法で遺伝子増幅産物が得られなかったため、遺伝子型は確認できなかったが、発症した接触者から検出された麻疹ウイルスは、遺伝子型D8と確認された()。

この13例のほか、周辺自治体含め本事例と関連が疑われる麻しん症例の報告はない。患者行動調査および接触者調査により13例の感染経路は把握されており、8月24日発症の症例発生以降は新規の症例を認めなかった()。

保健所の対応

最初の症例の発生届受理後、患者行動調査および接触者調査を実施し、PCR検査で確定した当日に医療機関や一般向けに管内での麻しん発生の情報提供を開始した。医師会、医療機関、松戸市等の関係機関と協力し、ワクチン接種勧奨や接触者の健康観察を実施するとともに、有症状時の外出自粛や早期の医療機関受診、保健所と医療機関へ事前連絡をしたうえでの受診等の対策を実施した。8月17日には本アウトブレイクの共有と拡大防止のため、管内医療機関関係者、教育関係者、周辺自治体の公衆衛生部局の担当者等を招き、麻しん対策会議を開催した。加えて同日に国立感染症研究所の実地疫学専門家の派遣を要請し、感染拡大防止の協力を得た。積極的疫学調査の結果、接点が不明な症例は認めておらず、最終の接触者が発生した8月27日から4週間が経過した9月24日をもって、本アウトブレイクは終息したと判断した。


 
千葉県松戸健康福祉センター(松戸保健所)
 古賀晴美 小林真奈美 白井順子 佐藤千里 影山育子 青山 均 新 玲子
国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース
 蜂巣友嗣 小林祐介
国立感染症研究所 感染症疫学センター
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