国立感染症研究所

 

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過去1カ月間の海外渡航歴、国内旅行歴のない麻疹の1例

(掲載日 2018/5/15)

東京在住の過去1カ月間の海外渡航歴、国内旅行歴のない麻疹の1例を報告する。

生来健康な38歳の日本人女性。2018年4月4日より発熱、関節痛、悪寒が出現した。4月6日に近医を受診し咽頭発赤を指摘され対症療法が開始された。4月7日には咳嗽、咽頭痛が出現した。4月9日に近医を受診し、シタフロキサシン投与が開始された。4月10日には全身に発疹が出現したため当院に受診された。

特記すべき既往歴・渡航歴はなく、小児期の定期接種としての麻疹ワクチンの接種歴がなかった。患者の子供二人(5歳、2歳)はそれぞれ1回の予防接種を行っている。

受診時、体温は38.2℃で、四肢や体幹に1~2mm大の紅斑が散在しており、頸部の皮疹は癒合傾向が見られた(写真1, 2, 3)。口腔内にはKoplik斑と思われる白斑が両側軟口蓋に認められた(写真4)。東京都健康安全研究センターで施行された咽頭ぬぐい液のPCR検査では麻疹ウイルス遺伝子が検出され、麻疹と診断した。全身倦怠感が著明であり、食欲不振のため同日入院の上、陰圧個室管理とした。合併症は認めず、対症療法のみで第4病日より解熱し、第7病日に皮疹は色素沈着へと移行したことを確認し退院とした。入院時(第1病日)の採血では麻疹IgG 10.5、IgM 4.04とともに陽性であった。

退院後に咽頭ぬぐい液より遺伝子型D8麻疹ウイルス遺伝子が検出された。2018年3月より沖縄で流行している麻疹もD81)であるが、因果関係は特定できていない。

2015年に日本は麻疹排除状態として世界保健機関(WHO)より認定されているが、輸入例による報告が散発している。典型例では空気感染を起こし、感染力が非常に高く、潜伏期も約10~12日と長いことが特徴である。経験のない臨床医も増加しており、診断の遅れにつながる可能性がある。根治的治療がなく対症療法が中心となるが、肺炎、脳炎などの合併症を起こすことがある。

麻疹は麻疹含有ワクチンの接種によって予防可能な疾患である。定期接種を励行するとともに、記録による2回のワクチン接種歴、または検査診断された麻疹の罹患歴がない者は麻疹含有ワクチンを接種することを積極的に検討する必要がある。

 

出典

 

国立国際医療センター病院総合感染症科
 井手 聡 忽那賢志 中野沙季 内田 翔 野元英俊
 太田雅之 石金正裕 山元 佳 大曲貴夫

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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