国立感染症研究所

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カンピロバクターのPenner PCR型別が有用であった食中毒疑い事例への対応-秋田県

(掲載日 2015/7/21)  (IASR Vol. 36 p. 161-162: 2015年8月号)

カンピロバクターの血清型別法にはPenner法とLior法があり、秋田県を含む全国7カ所のカンピロバクターレファレンスセンターで両法の比較解析を行っている。Penner法の試薬類は市販されており、レファレンスセンター以外でも実施可能であるが、型別率の低さが問題となっている。現在、カンピロバクターレファレンスセンターでは、Penner法の型別率向上のため、Polyら1)の方法を基にPenner法に対応したPCR型別を検討している。2015(平成27)年4月に秋田県内でバイキング形式の焼肉店が原因施設と推定される食中毒疑い事例が発生した。今回、その事例対応の検査において、このPCR型別法が有用であったので報告する。

事例は、医療機関から腹痛、下痢、発熱等の症状を呈した患者3名(その後1名追加)を診察し、検便からカンピロバクターを検出したとの報告により探知した。保健所の調査により、患者らが同一焼肉店を利用していたことが判明したことから食中毒を疑い、従業員の検便4検体、施設のふき取り10検体について、カンピロバクターを検査した。食材については、患者らに共通するロットの食材がなく、検査できなかった。患者4名については医療機関においてカンピロバクターがすでに分離されていたことから、菌株の提供を受け、菌種の確認と血清型別試験を実施した。

その結果、従業員便、冷蔵庫、まな板、包丁や食器棚等のふき取りからはカンピロバクターは検出されなかった。患者から分離されたカンピロバクターについて、PCR法により菌種の確認2,3)を行ったところ、いずれもCampylobacter jejuni であった。血清型別試験においては、Penner法では患者3がD群であったが、他3名は型別不能であり、菌株間の関連性について検討することができなかった()。Lior法では、4株とも型別可能であったが、血清型が一致したのは4名中2名のみであった。本事例の菌株について、PCR型別を試行したところ、患者1はHS1(A群)、患者2はHS23/36(R群)、患者3はHS4A/HS4B(D群)、患者4はHS2(B群)であり、患者4名由来の菌株はいずれも異なる型に同定された()。

カンピロバクター食中毒においては、型別率の低さが事例対応時の検査結果の解釈を困難にしているものと思われる。本事例においても、Penner法では4株中3株が型別不能となった。Lior法では型別可能であったが、本法の試薬は市販されておらず、自家調製のため使用期限の設定や安定した力価の確保といった精度管理は実際上難しい。一方、PCR型別では、Penner法で型別不能であった菌株についても型別でき、各患者由来の菌株が別々の血清型であることが確認できた。カンピロバクターは食品中ではほとんど増殖できず、食品の汚染状況によっては複数の血清型が確認されることもある。本事例においても単一食品の複数血清型の汚染を必ずしも否定することはできないが、カンピロバクター食中毒においても共通の原因食品がある場合は、比較的同一の血清型が分離される傾向にある。

保健所による疫学調査によると、当該施設はキムチ等の漬け物以外にサラダ等の非加熱摂取食品の提供はなく、野菜、食肉等の加熱調理用食材と、ご飯、スープの提供のみであった。利用者については、患者以外の他のグループからの有症苦情は認められなかった。保健所では、患者らから分離された菌株の血清型が違うことから、施設での食品の取り扱い不備を原因とした同一汚染源による食中毒と確定できないこと、また、患者らが食肉の加熱不足を認めていたことなどから、本事例は患者らの加熱不足による食肉の喫食が原因と考え、営業者について行政処分は行わず、食品の取り扱いについて文書による指示および厳重注意を行い、利用者に食肉の十分な加熱について注意喚起するよう指導した。 

食中毒等の事例対応の検査において、血清型の同定は疫学的な関連性を推定する上で非常に重要である。カンピロバクターのPenner PCR型別はこれまで問題となっていたPenner法の型別率の低さを補うことが可能であり、食中毒等の事例対応時の疫学解析に寄与するものと考えられる。

(協力医療機関:北秋田市民病院)
 

参考文献
  1. Poly, et al., J Clin Microbiol 49: 1750-1757, 2011
  2. Winters & Llavik, Mol Cell Probes 9: 307-310, 1995
  3. Linton, et al., J Clin Microbiol 35: 2568-2572, 1997

秋田県健康環境センター保健衛生部
  今野貴之 髙橋志保 樫尾拓子 熊谷優子 圓子隆信
秋田県北秋田保健所環境指導課
  袴田知之 金 和浩

 

 

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