国立感染症研究所

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<速報>新潟県におけるヒトパレコウイルス3型感染症の患者報告の急増

(掲載日 2014/7/30) (IASR Vol. 35 p. 220: 2014年9月号)

新潟大学医学部小児科ではリアルタイムPCR法を用いた微生物の迅速診断の検査体制を作り、県内外の大学の関連医療機関を中心に重症感染症、特に新生児、早期乳児の敗血症、ならびに髄膜脳炎を中心とした診断のための検査を実施している1)。そこで収集される検体は、主に血清および、髄液である。今回、新潟県内の医療機関から2014年の3月と5月に1症例ずつヒトパレコウイルス3型の検出があったが、6月に4症例、7月に7月24日時点で11症例と患者数が急増しており、今後さらなる症例数の増加が予測されるため、ここに報告する。

ヒトパレコウイルス3型が陽性となったのは計17症例で、全例が生後3か月未満の乳児(0か月児5症例、1か月児8症例、2か月児4症例)であった。検査を受けた時点での臨床診断名は敗血症であり、発熱、頻脈、網状チアノーゼを伴う症例が多かった。

ウイルス検査については、血清と髄液を用い、RNAとDNAを抽出後、リアルタイムPCR法でヒトパレコウイルス2)、エンテロウイルス3)、必要に応じて単純ヘルペスウイルス4)を検査した。ヒトパレコウイルスが検出された場合、VP1領域をsemi-nested PCRで増幅5)し、ダイレクトシークエンスによって塩基配列を決定してBLAST解析を行い、型を決定した。血清と髄液をともに検査した12症例のうち、両検体でヒトパレコウイルスが検出されたのは10症例(83%)であった。髄液陽性の症例は、髄液細胞数増多はなく、中枢神経症状もなかった。この臨床所見と検査所見の乖離は、過去の報告6)と同様であった。全例退院時点では後遺症はなかった。

日本では2008年7)と2011年8)に全国的なヒトパレコウイルス3型感染症の流行があり、前回の2011年から3年経過した今年も流行が予測されていた。過去の流行でも、6~8月にかけてピークがあった9)。その流行時は、手掌、足底の紅斑を認めた症例も多く報告された10)。今回の流行では、新潟県の北東部の新発田市で2014年3月と5月にヒトパレコウイルス3型感染症症例が報告され、6月に同地域での症例数の増加がみられ、7月にかけて隣接した地域(新潟市、次いで長岡市)へ広がりをみせた。石川県からも速報で2014年6月のヒトパレコウイルス3型の検出の報告がある11)。今後、ヒトパレコウイルス3型感染症の全国的な流行により、さらなる患者数の増加が予想される。

生後3か月未満の敗血症や髄膜脳炎を呈する症例では、ヒトパレコウイルス3型感染症を鑑別診断としてあげ、適切な検査を行うことが診断をつける上で重要である。


参考文献
  1. 鈴木優子, 他, 臨床とウイルス 42: S62, 2014
  2. Nix WA, et al., J Clin Microbiol 46: 2519-2524, 2008
  3. Mohamed N, et al., J Clin Virol 30: 150-156, 2004
  4. Corey L, et al., J Med Virol 76: 350-355, 2005
  5. Ito M, et al., J Clin Microbiol 48: 2683-2688, 2010
  6. Ghanem-Zoubi N, et al., J Clin Virol 58: 205-210, 2013
  7. 山本美和子, 他, IASR 29: 255, 2008
  8. 戸田昌一, 他, IASR 32: 294-295, 2011
  9. IASR, ウイルス集計表 エンテロウイルス(2)
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/230-iasr-data/2968-iasr-table-v-p.html
  10. Shoji K, et al., Pediatr Infect Dis J 32: 233-236, 2013
  11. 成相絵里, 他, IASR速報
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/entero/entero-iasrs/4842-pr4141.html

新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野 
 相澤悠太 鈴木優子 大石智洋 齋藤昭彦  
新潟大学大学院保健学研究科基礎生体情報検査科学 
 渡邉香奈子

 

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