国立感染症研究所

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<速報>生後3か月未満の乳児におけるヒトパレコウイルス感染症の発生

(掲載日 2014/7/31) (IASR Vol. 35 p. 221: 2014年9月号)

2014年6月以降、ヒトパレコウイルス感染症の入院症例が急増しているので報告する。

2014年6月9日~7月15日にかけて、都内某病院に発熱・敗血症疑いのために入院した生後3か月未満の乳児11例でヒトパレコウイルスがリアルタイムPCR法1)で陽性となっている(血清11例中11例、髄液11例中10例陽性)。同院では原因不明の生後3か月未満の乳児発熱症例を対象に2010年以後同検査を行っているが、今回の検出は過去2年の検出件数を大幅に上回る()。なお、同院における生後3か月未満の乳児で入院時に発熱・菌血症・敗血症・髄膜炎の疑いと診断された症例は、同期間(1月1日~7月15日)において2012年38例、2013年35例、2014年7月15日現在まで40例とほぼ一定である。

症例は全例が正期産児で、日齢10~77に発熱で発症している。不機嫌、哺乳不良の他、7例で軽度の腹部膨満を認めたが、呼吸器症状は稀であった。痙攣と無呼吸を呈した1例を含む2例が全身状態不良のため集中治療室管理となった。検査所見上、白血球数の中央値は4,480/μLとやや低値で、CRPは0.2~0.3mg/dLと正常、軽度の肝逸脱酵素上昇を呈する症例もあった。髄液所見は正常範囲内だが、痙攣を呈した例はMRI上の白質病変を認めた。

ヒトパレコウイルスはエンテロウイルスやポリオウイルス、ライノウイルスと同じピコルナウイルス科に分類されるウイルスである。本ウイルスは比較的軽症の胃腸炎、上気道炎の原因となることが知られ、学童期の抗体保有率は80%を超えるという報告がある2)。その一方で、生後3か月未満の乳児の敗血症や脳炎の原因となり、重症化することも知られ、2010~2011年にかけ、同様の症例集積があり、報告されている3)。典型的な症例は、高熱と輸液に反応の乏しい頻脈と末梢循環不全で発症し、経過中に手掌足蹠・四肢・体幹の一過性の紅斑を呈する3)。白血球数やCRPなどの炎症マーカーは正常範囲内であることが多い。ヒトパレコウイルス感染症の全容は未解明であるが、本事例と文献における報告によると、エンテロウイルス感染症と同様に、自然軽快する軽症のものから集中治療を要する重篤なものに至るまで、臨床像は多岐にわたっている。本ウイルスによる感染に対しては特異的な治療は存在せず、症状の軽重に応じた対症療法を講じるほかない。

本邦においては2006、20084)、2011年5,6)にも流行が報告されており、今季も感染の拡大の可能性があると考えられ、感染予防に留意が必要と考える。ヒトパレコウイルスを検討する対象となった症例のほとんどは生後3か月未満の乳児症例であり、本事例の多くの場合、先行して感冒様症状のあった家族に接触していた。これらのことから、生後3か月未満の乳児のいる家庭内では、感冒様症状のある家人のマスク着用と、エンテロウイルス対策と同様の手洗いを中心とした衛生行動の徹底が必要と思われる。

 
参考文献
  1. Nix WA, et al., Detection of All Known Parechoviruses by Real-Time PCR, J Clin Microbiol 46: 2519-2524, 2008
  2. 愛知県衛生研究所, ヒトパレコウイルスについて 
    (2006年12月8日 http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/hpev.html
  3. Shoji K, et al., Dermatologic manifestations of human parechovirus type 3 infection in neonates and infants, Pediatr Infect Dis J 32: 233-236, 2013
  4. 2008年6~7月のパレコウイルス3型の急増について―広島市  
    (IASR 29: 255, 2008年9月号
  5. 生後3カ月以内の乳児における不明熱等患者からのパレコウイルス3型の検出―山口県  
    (IASR 32: 294-295, 2011年10月号
  6. ピコルナウイルス感染症サーベイランスの現状―限界と展望―(山形県)  
    (IASR 32: 295-296, 2011年10月号

独立行政法人国立成育医療研究センター
生体防御系内科部感染症科 宮田一平 宮入 烈

 

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