国立感染症研究所

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介護老人保健施設におけるヒトRSウイルスの集団感染事例-富山県

(IASR Vol. 39 p126-127: 2018年7月号)

富山県内の介護老人保健施設(入居者87名, 職員40名)において, 2017年12月19日~2018年1月15日までに, RSウイルス感染症の集団発生が発生したので, その概要を報告する。

2018年1月9日に当該施設から管轄保健所に発熱, 咳嗽, 鼻汁, 咽頭痛などの呼吸器症状を呈する入所者が多数いるとの報告があった。保健所は施設内の患者発生状況を調査したところ, 2017年12月19日~2018年1月15日までに発熱, 咳嗽, 鼻汁, 咽頭痛を主症状とする入所者が46名(52.9%), 職員が3名(7.5%) 認められた()。有症者49名の性別は男性2名, 女性47名, 年齢は入居者76~102歳, 職員30~61歳であった。主な症状は, 発熱25名(51.0%), 咳42名(85.7%), 鼻汁27名(55.1%), 咽頭痛3名(6.1%) であった。また, 有症者のうち13名が肺炎, 急性気管支炎等と診断され入院したが, 13名全員が回復した。数名にインフルエンザウイルス, ノロウイルスの迅速検査を実施したが, いずれも検出されなかった。

保健所は, 原因となった病原体を明らかにするために, 呼吸器症状を呈した入所者3名から鼻腔ぬぐい液を採取し, 当研究所に検査を依頼した。当研究所では, ヒトRSウイルス(HRSV), ライノウイルス, エンテロウイルス, ヒトボカウイルスおよびアデノウイルスを対象としたPCR検査を実施した。その結果, いずれも1月17日に採取された3名の有症者全員(70代1名, 90代以上2名)の検体からHRSV遺伝子が検出された。その他の呼吸器ウイルスは検出されなかった。HRSVの遺伝子検出には, G遺伝子領域を増幅するプライマーセットABG490, AG655, BG517, およびF1641)を用いた。得られたHRSV遺伝子(371bp)を系統樹解析したところ, 3名から検出されたHRSVは, すべてHRSVサブグループA(HRSV-A)に分類され, 解析株間の塩基配列は100%一致した。このことから, 本事例はHRSV-Aを原因とする高齢者の呼吸器感染症の集団感染と確定し, 飛沫や接触によるヒト-ヒト感染によって施設内に感染が拡大したと思われた。

なお, 当該施設では, 発症者の隔離, 面会禁止, ワンフロアからユニット分けに切り替え, 換気・消毒による環境整備, 職員の手洗い・手指消毒の励行などの感染拡大防止対策を実施した。1月15日以降, 新たな患者は確認されなかった。

HRSVはウイルス中和においては単一血清型であるが, 抗原性状や遺伝子系統の違いから, 2つのサブグループ(HRSV-A, HRSV-B)に分類される。さらに, G遺伝子の分子系統解析により, HRSV-Aは11遺伝子型, HRSV-Bは20遺伝子型に細分類される。今回の富山県における事例で検出されたHRSV-Aの遺伝子型はON1であったが, ON1は国内では2013年以降に多くみられており2), 富山県におけるHRSV伝播も国内における流行から影響を受けているものと考えられる。

またHRSVは, 特に生後6か月以内の乳児では時に重症な下気道炎を起こすことが知られている。年長児や成人においては, 再感染が日常的にみられるものの, 重症化は稀である。しかしながら, 高齢者においては, HRSVの感染がインフルエンザと同等の致命率を示すことがあり3), 集中治療室への入室が必要な肺炎症例等, 重症例が多い4)。高齢者での重症化の危険因子としては, 慢性閉塞性肺疾患(COPD), 喘息, 慢性心疾患, 重度の免疫不全状態が示唆されている。

これまでにも高齢者施設におけるHRSVの集団感染事例が報告されており5), 集団生活の場において, HRSVは飛沫や接触により感染が拡大しやすい。高齢者施設で呼吸器感染症が発生した場合, 早期に感染拡大防止対策を講じることが大切である。職員や来所者を介して, 施設の高齢者へHRSVが感染する恐れもあるため, 施設では入所者のみならず職員の健康状態も日常から把握することや, 来所者に注意を促すこと等の予防対策を実施することが重要である。

謝辞:本報告を行うにあたり, 検体採取および情報提供にご協力くださいました関係各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. Tuan TA, et al., Influenza Other Respir Viruses 9(3): 110-119, 2015
  2. Hibino A, et al., PLoS ONE 13(1): e0192085, 2018
  3. Weiss RA, et al., Nat Med 10(12): S70-76, 2004
  4. Kurai D, et al., Respir Investig 54(4): 255-263, 2016
  5. 永田紀子ら, IASR 35: 146-147, 2014

 

富山県衛生研究所ウイルス部
 米田哲也 板持雅恵 稲崎倫子 佐賀由美子 青柳由美子 長谷川澄代 小渕正次
富山市保健所 杉野泰子 元井 勇
富山県厚生部健康課 三井千恵子 新保孝治 加納紅代

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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