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小学生および成人の筋痛症事例からのヒトパレコウイルス3型の検出―神奈川県

(IASR Vol. 38 p.127-128: 2017年6月号)

ヒトパレコウイルス3型(HPeV-3)感染症は, 主として新生児および乳児において, 無菌性髄膜炎, 麻痺, 脳炎, 胃腸炎, 呼吸器症状および発疹などを呈し, 稀に重症例も認められる重要な感染症である1)。また, 近年では, 成人および小児において, 筋肉痛を主訴とする流行性筋痛症患者からHPeV-3が検出されたとの報告が複数あり, その関連性が示唆されている2-4)。今回我々は, 2016年6月中旬~10月中旬の間に, 神奈川県内2地区において小学生および成人の筋痛症発生事例からHPeV-3を検出したので, その概要について報告する。

事例1

2016年6月17~25日に, 県央地区の小学生4名(男3名, 女1名, 平均年齢10歳)がウイルス性筋炎と診断された(表1)。主な症状は, すべての患者に発熱, 疼痛(筋肉痛, 全身性疼痛あるいは関節痛)を認め, うち2名は歩行困難を呈した。他に, 咽頭痛, 発疹がみられた。3名は同じ小学校であり, うち2名は同胞であった。

事例2

2016年9月25日~10月14日に, 県西地区の同一職場に勤務する成人男性2名(38歳, 30歳)と孤発1例(39歳)(平均年齢35歳)に筋痛症を認め, 3名いずれも, 自身の発症以前に子の急性胃腸炎症状が先行していた。このため, 流行性筋痛症と臨床的に診断され, 四肢筋優位の筋肉痛であり, 体幹筋優位のコクサッキーウイルスによる流行性筋痛症とは臨床症状が異なるため, HPeV-3の関与が疑われた(表2)。すべての患者に筋肉痛が認められ, 他に発熱, 口内炎, 舌炎, 咽頭痛あるいは陰嚢痛がみられた。

ウイルス検査結果

患者7名の咽頭ぬぐい液, 糞便, 血漿からウイルス分離検査(RD-A, A549, VeroおよびVeroE6)およびエンテロウイルス5,6), HPeV7), ヒトヘルペスウイルス8)の核酸増幅検査を実施した結果, すべての患者からHPeV-3遺伝子が検出された。このことからHPeV-3が病因ウイルスと考えられた。発症から3週間以上経過して採取された糞便からもHPeV-3遺伝子が検出された症例があった。

得られた増幅産物についてダイレクトシークエンスを実施し, VP3/VP1領域(213 nt)について, 事例1の4例, 事例2の3例および無菌性髄膜炎患者等から検出されたHPeV株(2014年15例, 2015年3例, 2016年3例)の系統樹解析を行った()。その結果, 事例1(図中●印)は塩基配列が100%一致した。事例2(図中○印)では, 一番発症の早かった症例161905はその後発症した2例の株と比べ4塩基の違いがあったが, アミノ酸変異はみられなかった。2014年に当所において無菌性髄膜炎等から検出されたHPeV-3は一つのクラスターを形成していたが(ブートストラップ値98%), 今回の事例の検出株は, 別のクラスターを形成していた。

考 察

感染症サーベイランスシステム(NESID)の病原体検出情報システムの集計によると, 全国のHPeV-3検出報告数は, 2015年は10例であったが, 2016年は324例に増加していた(2017年5月17日現在報告数, https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data60j.pdf)。2016年, 当所ではHPeV-3は筋痛症の他, 無菌性髄膜炎と診断された乳児からも複数検出されており, 神奈川県内においてHPeV-3感染症が流行していたと推察された。本事例から, 成人, 小児ともに集団発生しうることが判明し, 筋肉痛を主訴とするウイルス感染症が疑われた場合にはHPeVを検査対象に加える必要があることが明らかとなった。

今回の2事例は, 各医療機関より保健福祉事務所および感染症情報センターに原因不明感染症事例として相談があり, 保健福祉事務所の積極的疫学調査により衛生研究所でウイルス検査を実施するに至った。医療機関, 保健福祉事務所および感染症情報センターが連携することで検出でき, 感染症発生動向調査の有用性を示した事例となった。

  

参考文献
  1. 伊藤 雅ら, モダンメディア 53: 329-336, 2007
  2. Mizuta K, et al., Emerg Infect Dis 18: 1787-1793, 2008
  3. Yamamoto SP, et al., J Med Microbiol 64: 1415-1424, 2015
  4. Mizuta K, et al., Epidemiol Infect 144: 1286-1290, 2016
  5. 川俣 治ら, 新潟医学会雑誌 111: 633-646, 1997
  6. 宗村徹也ら, 感染症学雑誌 82: 55-57, 2008
  7. Harvala H, et al., J Clin Microbiol 46: 3446-3453, 2008
  8. Johnson G, et al., J Clin Microbiol 38: 3274-3279, 2000

 

神奈川県衛生研究所微生物部
 佐野貴子 嘉手苅 将 渡邉寿美 近藤真規子 黒木俊郎
神奈川県衛生研究所感染症情報センター
 田坂雅子 高橋智恵子 中村廣志
神奈川県厚木保健福祉事務所保健予防課(現 茅ヶ崎市保健所派遣中)
 鮫島まりな
神奈川県小田原保健福祉事務所足柄上センター保健予防課
 山下 舞
神奈川県立足柄上病院
 田中 聡 國司洋佑 太田光泰
相模台病院小児科
 石田倫也 白井宏幸

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