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平成29年度ポリオ環境水サーベイランス(感染症流行予測調査事業および調査研究)にて検出されたエンテロウイルスについて

(IASR Vol. 40 p88-90:2019年5月号)

2013(平成25)年度より開始したポリオ環境水サーベイランスは5年目を迎えた。これまで2014年と2016年にそれぞれ1回づつ3型ポリオウイルスワクチン株が流入下水より検出されている1)

わが国では2012年9月より定期接種用ワクチンを経口ポリオワクチン(OPV)から不活化ポリオワクチン(IPV)に変更した。これに伴い海外から輸入を想定した高感度なウイルスサーベイランスが必要になるため, 翌年度より感染症流行予測調査事業, および各地方衛生研究所(地衛研)による調査研究として環境水サーベイランスを開始した。環境水サーベイランスではポリオウイルスを検出することを目的としているが, 各地衛研では同時に検出されるエンテロウイルスの同定も行っている。今般, 調査期間中に全国で検出されたエンテロウイルスの同定結果を取りまとめたので概要を報告する。

方法

本調査では2017年1月~2018年3月の間, 月1回の頻度で流入下水を採取した。調査期間は各地衛研で異なっており, 調査結果とともに次ページ図に示している。なお事業として16地点, 調査研究として2地点, 計18地点の地衛研の協力を得ており, 調査対象地域の下水道利用人口は合計約660万人である。平成29年度感染症流行予測調査事業実施要領2)に基づき, 流入下水を陰電荷膜法等にて濃縮(50~100倍)し, ウイルス分離・同定を行った。

結果と考察

平成29年度の調査期間中ポリオウイルスは検出されなかった。ウイルス検査時に同定されたウイルスのうちエンテロウイルスの同定結果をに示す。ただし未同定のウイルス, あるいはエンテロウイルス以外のウイルス(アデノウイルス, レオウイルス等)は次ページ図に含まれていない。エンテロウイルスA(EV-A)群に属するウイルスはコクサッキーウイルス A4(CA4), エンテロウイルス71が各1箇所で検出された。環境水から分離されたエンテロウイルスの大部分はEV-B群であった。検出地点と延べ検出月数が特に多いウイルスは, エコーウイルス6(E6)とE3である。これらの2種類は18地点のうち16箇所で検出され, 延べ検出月数はE6が114月, E3は91月であった()。以下, 比較的検出頻度の高いウイルスの検出地点と延べ検出月数は, E7=12箇所(35月), CB4=11箇所(28月), CB2=9箇所(22月), E11=5箇所(18月), CB5=7箇所(14月), の順であった。この様にE6とE3は他のエンテロウイルスに比べ, 長期間かつ広範囲に流行していた可能性を示唆している。なお2カ月以上検出された血清型は地域内流行の可能性が考えられ, では灰色で示している。

世界ポリオ根絶計画の進捗とともに野生株感染によるポリオ患者の発生はアフガニスタン, パキスタンの2カ国に限られており1型野生株のみが報告されている。また2018年には患者数は両国で32例が報告されている。野生株による患者数は大幅に減少した半面, 伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)による患者が, 同年8カ国より報告され, 報告数は105例(1型=27例, 2型=71例, 3型=7例)である3)。アジアではパプアニューギニア, インドネシアにおいてもVDPVの伝播が報告されている現状を踏まえ, 野生株のみならずVDPVの輸入リスクを念頭に置いたポリオウイルス監視体制を維持する必要がある。

謝辞:調査にあたり関係自治体, 保健所, 下水処理場より多大なるご協力をいただいた。厚くお礼申し上げる。本報告は, AMEDの課題番号JP18fk0108066による支援を受けた。

 

参考
  1. 吉田 弘ら, IASR 39: 67-69, 2018
  2. H29年度感染症流行予測調査事業実施要領
  3. GPEIホームページ
    http://polioeradication.org/polio-today/polio-now/
    (2019年2月19日アクセス)

 

福岡県保健環境研究所 芦塚由紀
富山県衛生研究所 板持雅恵
愛知県衛生研究所 伊藤 雅
山梨県衛生環境研究所 大沼正行
横浜市衛生研究所 小澤広規
岡山県環境保健センター 梶原香代子
岐阜県保健環境研究所 葛口 剛
福島県衛生研究所 熊田裕子
北海道立衛生研究所 後藤明子
岩手県環境保健研究センター 高橋雅輝
青森県環境保健センター 筒井理華
大阪健康安全基盤研究所 中田恵子
奈良県保健研究センター 中野 守
長野県環境保全研究所 西澤佳奈子
和歌山県環境衛生研究センター 濱島洋介
千葉県衛生研究所 堀田千恵美
堺市衛生研究所 三好龍也
佐賀県衛生薬業センター 諸石早苗
国立感染症研究所 吉田 弘

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