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コレラワクチンに関するWHOのポジションペーパー:2017年8月

(IASR Vol. 38 p250-250: 2017年12月号)

世界保健機関(WHO)は, 2010年3月に公表したコレラワクチンに関するポジションペーパーの改訂を行った(http://www.who.int/wer/2010/wer8513.pdf?ua=1)。

コレラはVibrio choleraeによって引き起こされる下痢症であり, ハイチ, イエメンでの大規模な流行や, サハラ以南のアフリカやアジアでの持続的な流行が発生しており, 今もなお世界的に深刻な問題である。2015年には, 42カ国から172,454症例, 1,304死亡例がWHOに報告された。しかし13億人がコレラの脅威にさらされており, 症例は286万人(範囲:130-400万人), 死亡者は95,000人(範囲:21,000-143,000人)に及ぶとの試算もある。そして, 症例および死亡者の約半数は5歳以下の小児と推定されているが, 全年齢が影響を被る。コレラ蔓延地域は地域内伝播による確定症例が過去3年以内に検出されている地域, ホットスポットはコレラが伝播する環境が整っており, 患者が持続的または定期的に発生している限定した地域, アウトブレイク(outbreakまたはepidemic)は少なくとも1例の地域伝播による確定症例の発生または持続的に患者が発生している状況で疑い症例(その中に確定症例を含む)の2週連続しての予期し得ない増加, と定義される。コレラの予防は安全な水と衛生(WaSH), 食品産業への標準的な衛生法の設立強化, 適切な患者管理と予防接種である。

現在, 広く利用可能な経口コレラワクチンは, killed whole cell monovalent(O1)vaccines with a recom-binant B subunit of cholera toxin(WC-rBS)とkilled modified whole cell bivalent(O1 and O139)vaccines without the B subunit(WC)の2種類がある。本稿の中では, WC-rBSとして1つ, WCとして3つ(2010年時より1つ追加)のワクチンが取り扱われている。2種類のワクチンの投与回数やスケジュールについては, 2010年時点と変更はなく, WC-rBS(2歳未満は未承認)は7~42日間の投与間隔をおいて, 2~5歳では3回, 6歳以上では2回, WC(1歳未満は未承認)は1歳以上で14日間の間隔を空けて2回の投与が推奨されている。上記スケジュールにて投与した場合の効果の持続期間は, WC-rBSでは2年(6歳以上)ないし6カ月(2~5歳), WCでは最長で5年程度と推定されている。なお, WCについては1回投与による短期間の予防効果が示され, アウトブレイク時の同用法での使用が考慮されている。

経口コレラワクチンは, 2013年よりInternational Coordinating Group(ICG)の管理のもと, 有事に迅速に対応ができるよう備蓄が行われている。WHOは本稿において, 2010年のものと一貫し, 経口コレラワクチンの安全性, 効果, 使用の実行可能性などを認め, コレラの影響を受ける人々への使用を推奨している。ただし, ワクチン接種は常に, 他のコレラ対策と共同で実施されることが必要であり, 他の優先度の高い対策を妨げるものであってはならない。そして, ワクチンの使用は, いかなる状況においても, 地理的分布や対象集団の罹患リスク, 現地のキャパシティ, 過去のワクチンキャンペーン状況を評価し, 一定の基準に基づき決定されるべきである。ワクチンを使用する状況や対象として, 地域的なコレラの蔓延, コレラアウトブレイク時に加え, 人道危機の際や特定の集団(妊婦・授乳婦, HIV感染者注1, 海外渡航者・長期滞在者や医療関係者)が含まれる。

注1:2010年時点で妊婦, HIV感染者はワクチン投与対象の推奨に含まれている。

 

(WHO, WER 92(34): 477-500, 2017)
(抄訳担当:感染研感染症疫学センター・錦 信吾, 山岸拓也, 砂川富正)

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